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『吾妻鏡』で読む大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(1)序説

今年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、面白いですね。喜劇を得意とする三谷幸喜氏の脚本だけあって、第1回で北条時政(演:坂東彌十郎)が「首ちょんぱじゃねえか!!」と叫ぶなど、軽妙な描写が話題にされがちです。

しかし、本作のストーリーの大筋は、まぎれもない史実。主人公・北条義時(演:小栗旬)は、今のところ戦にも政治にも苦手意識をもつ純朴な好青年として、源頼朝(演:大泉洋)たちに振り回されていますが、ゆくゆくは頼朝の息子たちや仲間の武士たちを次々と滅亡に追いやり、最終的には鎌倉幕府執権として、将軍や天皇をも上回る政治権力を握ることになります。

三谷氏の得意とするコミカルな作劇が、血で血を洗うはてしない権力闘争というシビアな史実に、どのように迫っていくのか。そこが本作の最大の見どころになるのではないかと、私は期待しています。

それでは、本作が基づいている「史実」とは、何でしょうか。その根本史料となるのが、鎌倉幕府の成立を描く歴史書『吾妻鏡』(あずまかがみ)です。

1180年の以仁王の挙兵から、1266年に鎌倉幕府6代将軍・宗尊親王が鎌倉から追放されるまでの87年間を扱っています。鎌倉幕府が滅亡するのは、それから67年後の1333年ですから、およそ鎌倉時代の前半までが描かれているわけです。

成立時期や編纂者については、はっきりとわかっていませんが、およそ1300年頃に、幕府の文書行政を担う三善氏・大江氏・二階堂氏(『鎌倉殿の13人』に登場する三善康信〔演:小林隆〕、大江広元〔演:栗原英雄〕、二階堂行政〔キャスト未発表〕の子孫)の保管する資料に基づいて編纂されたものと考えられています。

もちろん、現代では、歴史学の進歩によって、いろいろと誤りも指摘されています。単純な編纂ミスもありますし、幕府の最高権力者である北条氏を美化するための意図的な脚色も判明してきています。しかし、それでもなお、鎌倉時代前半を知るための根本史料としての価値は揺らぎません。

『吾妻鏡』の最大の特色は、東国武士の視点から編まれた歴史書だという点です。それ以前に歴史書といえば、『古事記』『日本書紀』に始まって、朝廷を中心とするものでした。実際、平安時代以前の日本は、おおむね、朝廷および貴族が政権を握っていたわけですから、歴史書も朝廷の視点から編まれるのは当然のことです。

ところが、鎌倉幕府は、日本史上初めて、朝廷から独立した政治権力を持ちました。それまで辺境に過ぎなかった関東地方が、初めて政治の中心地になりました。それまで朝廷・貴族に軍事力を提供するに過ぎなかった武士たちが、初めて政治の実権を握りました。

これら二つの意味で、鎌倉幕府は日本という国のかたちを大きく変えてしまったのです。この、日本史上まれにみる大変革を担った武士たち自身の視点によって、『吾妻鏡』は描かれています。そういう意味でも、『吾妻鏡』はたいへん魅力的な歴史書だといえます。

『鎌倉殿の13人』では、第3回(1月23日放送)で以仁王の挙兵が描かれました。ここから最終回までのストーリーは、すべて『吾妻鏡』の内容に対応するものと考えられます。そこで、私はこれから一年間、『鎌倉殿の13人』の内容と『吾妻鏡』の内容とを比較して、ドラマがどのように史実を再構成しているか、指摘してみたいと思います。それとともに、歴史書としての『吾妻鏡』の魅力も発信していきたいと思います。読者のみなさまからも、ご指摘をいただければ幸いです。

参考:五味文彦「『吾妻鏡』とその特徴」(『現代語訳吾妻鏡1 頼朝の挙兵』所収、吉川弘文館、2007)

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  この記事を書いた人
愛水 さん

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