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『吾妻鏡』で読む大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(10)山木夜討

今回は、『鎌倉殿の13人』第4回「矢のゆくえ」(1月30日放送)・第5回「兄との約束」(2月6日放送)にかけて描かれた、源頼朝の挙兵の顛末を、『吾妻鏡』の記述から追ってみましょう。

挙兵の予定日時は治承4年8月17日の早朝でした。ところがその前日の16日は雨続きで、頼朝が重要な兵力として期待していた佐々木定綱ら四兄弟は到着しません。頼朝は佐々木が平家に寝返ったのではないかとの疑心暗鬼にとらわれ、挙兵計画を打ち明けたことを後悔していました。

翌17日は快晴でした。挙兵を予定していた寅卯刻(午前4時~6時頃)は空しく過ぎ、日が高く昇ります。安達盛長は、三島大社の祭礼のために頼朝の代理として参拝に出向き、ほどなく北条へ帰ってきました。

頼朝が気を揉むうちに、未刻(午後2時頃)になりました。この時、ついに佐々木定綱・経高・盛綱・高綱の四兄弟が北条に到着します。彼らは寝返ったのではなかったのです。しかも定綱・経高は騎馬ですが、盛綱・高綱は徒歩というふうに軍備が不揃いで、大急ぎで駆けつけた様子がありありとわかりました。

頼朝は感涙を流して彼らを迎えましたが、

「汝等の遅参に依りて、今暁の合戦を遂げず、遺恨万端(お前たちが遅れたせいで、今朝の合戦ができなかった。無念千万だ!)」

となじります。定綱たちは、昨日の雨により洪水に遭って遅参してしまったと語り、陳謝しました。

夜も更けてきて戌刻(午後10時頃)、安達盛長の下人が一人の男を捕えます。これは山木兼隆の下人で、北条館の下女と夫婦仲であるため、たびたび忍んで通っていたのです。

もしこの下人が山木館へ帰れば、北条館に軍勢が集結していることを報告してしまうに違いない――と判断した頼朝が、盛長に命じて捕えさせたのでした。

頼朝は機密が漏れないよう、今夜のうちに襲撃を決行することを決断しました。北条時政は、大通りは祭礼で混雑しているので間道を通ろうと提案しましたが、頼朝は

「事の草創として、閑路を用ひ難し(重大な事業の始まりであるから、抜け道を通るわけにはいかない)」

大通りを進め、と命じました。

さらに、兼隆を討ち取り次第、山木館に火を放つよう命じました。約2.5km離れた北条館からも、勝利がすぐにわかるようにするためです。

頼朝の命令に従い、北条時政・佐々木定綱を主力とする軍勢が山木へ向かいます。

『源平盛衰記』によれば、総勢85騎という小勢でした。その途中、北条時政は定綱を引き留めて、兼隆の後見人である堤信遠を同時に討つよう勧めました。時政の言葉に従い、佐々木兄弟は北条の下人・源藤太という者を案内役にして、堤の館に向かいます。

佐々木経高は、館の前庭に進み出て、真っ先に矢を放ちました。

「是、源家平氏を征する最前の一の箭(や)なり」――これが、頼朝による平家討伐の最初の一矢となったのです。旧暦17日のよく晴れた深夜、満月に近い月明かりのもとで、佐々木兄弟は奮戦の末に信遠を討ち取りました。

ドラマでは北条時政(演:坂東彌十郎)・義時(演:小栗旬)父子が、因縁のある信遠(演:吉見一豊)と対戦することになっていましたが、むろん創作でしょう。北条の軍勢は頼朝軍の本隊ですから、当然、主要な攻撃目標である山木館に押し寄せました。山木の従者の多くは祭礼のため出払っていましたが、残っていたわずかな手勢が応戦します。そこへ、信遠を討ち取った佐々木兄弟の分隊も加わりますが、戦いは難航します。

頼朝は北条館から山木の方角を見守っていますが、待てど暮らせど、火の手は上がりません。焦った頼朝は、自分の傍に残していた佐々木盛綱・加藤景廉・堀親家の3人を山木館へ送り込みました。

『源平盛衰記』によれば、兼隆を討ち取ったのは加藤景廉でした。兼隆は館の一室に潜み、太刀を振りかざして敵を待ち構えていたのですが、それを見抜いた景廉は、長刀(なぎなた)の先端に兜をひっかけて、兼隆の目前に突き出します。

敵襲と思い込んだ兼隆は太刀を振り下ろしますが、もちろん空振り。勢いあまって、太刀は鴨居に深く突き刺さってしまいます。身動きの取れなくなった兼隆を、景廉は見事に討ち果たしたのでした。

まもなく山木館に火が放たれ、北条館にいる頼朝も勝利を確信しました。翌18日の朝、頼朝は兼隆・信遠らの首を検分し、さらに19日には兼隆の親族・中原知親が務めていた蒲屋御厨(現・静岡県下田市および南伊豆町)の奉行職を剥奪する命令を発します。

『吾妻鏡』に「是、関東の事施行の始めなり」とある通り、頼朝はここから東国支配の確立に向けて動き始めたのです。

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  この記事を書いた人
愛水 さん

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