※ この記事はユーザー投稿です
ドラマに登場する織田信長の名場面を『信長公記』から拾ってみました
- 2022/08/29
戦国の風雲児、織田信長の足跡を知るうえで欠かせない史料が『信長公記』です。信長の秘書的な存在だった太田牛一という人が、信長の一代記として書いたものですが、そのなかには、映画やドラマでおなじみの名場面のエピソードも数多く記されていたのです。名場面のいくつかを『信長公記』から拾ってみました。
※信長公記の該当部分は、中川太古訳「地図と読む現代語訳 信長公記」から引用しました。
※信長公記の該当部分は、中川太古訳「地図と読む現代語訳 信長公記」から引用しました。
奇抜な格好の信長を細かく描写
若き日の織田信長は、人から「大うつけ」と呼ばれていたそうです。ドラマでは奇抜な格好をした信長が、側近たちと城下を歩くシーンが描かれますが、まるで判で押したように同じような格好がコーディネートされています。信長公記ではこのように書いています。
「湯帷子(ゆかたびら)を袖脱ぎにして着、半袴。火打ち袋やら何やらたくさん身につけて、髪は茶筅(ちゃせん)まげ。それを紅色とか萌黄色とかの糸で巻き立てて結い、朱ざやの大刀を差していた」
かなり細かい描写をしていますね。これを参考にすれば、ドラマに出てくる信長の格好になるわけです。さらに太田牛一は「瓜をかじり食い、立ったまま餅を食う」という信長のふるまいを「見苦しいこと」とも書いています。
父の葬儀で抹香を投げつけていた!
信長の父で、末盛城主だった織田信秀が病に倒れて亡くなってしまいます。その葬儀が万松寺で行われたのですが、信長は奇抜な格好のまま姿を現すのです。これもドラマでよく見られるシーンで、信長の破天荒さが描かれています。そのようすを『信長公記』はこう書いています。
「長柄の大刀と脇差をわら縄で巻き、髪は茶筅まげに巻き立て、袴もはかない。仏前に出て、抹香をかっとつかんで仏前へ投げかけて帰った」
抹香を投げつけるという非常識な行為も、創作された演出ではなく、『信長公記』の記載を再現したものだったのですね。ちなみに、信長と対立することになる弟の信行については、折り目正しい正装で礼にかなった作法だったと触れています。
斎藤道三との劇的な対面
信長は、美濃の実力者・斎藤道三の娘を嫁にもらいました。道三は対面の場を設けて、信長に出てくるように促したのです。道三が町はずれの民家に隠れて、やって来る信長の様子を見ていると、信長は例によって奇抜な格好で行列を引き連れてきました。この場面も、対面の場で身支度を整えた信長の姿とのギャップを現そうとした演出ではないかと思っていました。ところが、道三が信長の行列をのぞき見たことも、その時の信長のいでたちも、『信長公記』に書かれていたとおりだったのです。
『信長公記』では、対面の場で身支度を整えた信長について、こう書いています。
「家中の人々は、『さては、近頃の阿呆ぶりは、わざと装っていたのだな』と肝をつぶし、誰もがしだいに事情を了解した」
道三は、信長の身支度や仕草だけでなく、長い槍や鉄砲をそろえた行列を見て、信長がただ者ではないことを悟ったのです。
信長は出陣前に「敦盛」を舞っていた
信長が、今川義元の大軍勢を破った桶狭間の合戦は、戦国史上でも屈指の逆転劇と言われています。その出陣を前にして、信長が「敦盛」の舞を舞うシーンが、ドラマのハイライトとして必ず描かれています。信長公記では、信長が「敦盛」を好んでいたことを、武田信玄の元を訪れた僧の話として書いています。さらに、桶狭間の合戦の項では、このように記しています。
「信長は敦盛の舞を舞った。『人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり。ひとたび生を得て、滅せぬ者のあるべきか』と歌い舞って、『ほら貝を吹け、武具をよこせ』と言い、鎧をつけ、立ったまま食事をとり、兜をかぶって出陣した」
まさに、映画やドラマで演出される場面そのものですよね。この時、信長に付き従ったのはお小姓衆5人だけで、熱田まで3里(約12キロ)を一気に駆けて行ったとも記しています。
おわりに
織田信長が、他の戦国武将と比べて人物像や功績が具体的に知られているのは、太田牛一の『信長公記』があってこそだと思います。家臣だったので、信長を顕彰する気持ちが強いのは当然ですが、できごとを正しく書き残そうという意志も伝わってきます。斎藤道三との対面の場面や桶狭間の合戦の出陣など、臨場感あふれる描写ぶりに、牛一の文才を感じずにはいられません。なかには、牛一が創作したエピソードがあるかもしれませんが、もしそうであれば、現代の脚本家も顔負けと言ってもいいでしょう。
- ※Amazonのアソシエイトとして、戦国ヒストリーは適格販売により収入を得ています。
- ※この掲載記事に関して、誤字脱字等の修正依頼、ご指摘などがありましたらこちらよりご連絡をお願いいたします。
コメント欄