真の戦争終結のため、実行不可能なミッションに挑んだ「緑十字機」の奇跡

  • 2026/02/26
F6Fに護衛される緑十字機(1945年8月、出典:wikipedia)
F6Fに護衛される緑十字機(1945年8月、出典:wikipedia)
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 終戦記念日となる8月15日、日本人のほとんどがこの時に戦争が終わったと思っています。しかし実は日本の存亡にかかわる本当の危機は翌8月16日から始まります。対応を誤れば、アメリカとの戦争が再開し、ソ連の北海道侵攻を招きかねませんでした。

 日本を真の終戦に導いた太平洋戦争ラストミッション。それがこちら平和の白い鳩・ミドリ十字機の決死の飛行でした。日本政府からもGHQからも公表されず、国民の誰も知らなかった空白の7日間に 一体何があったのでしょうか?

日本存亡の危機と緑十字機

 実は8月15日という日は、戦争終結をするための条件を満たしていなかったため、「真の終戦」ではありませんでした。そしてその時から、日本は存亡の危機に晒されることになり、一刻も早い戦争終結が急務となっていたのです。

 戦争終結の条件というのは、「無条件降伏の調印」「日本の占領」「全武装解除」の3つです。真の終結をするには、アメリカ進駐軍と占領の交渉を行った上で、進駐開始前に全武装解除を完遂し、占領を実行します。そして最終的には、無条件降伏の調印という対応が必要だったのです。

 ですので8月15日以降、まず日本は占領の交渉の地として、アメリカが指定したマニラへ降伏軍使を派遣する必要がありました。その極秘ミッションを緑十字機が行うこととなったのです。緑十字機とは、飛行機全体を白色に塗り、緑色の十字を着けた飛行機をいいます。

極めて困難な極秘ミッション

日本海軍最強といわれた「厚木航空隊」

 ここで大きな問題となったのが「厚木航空隊」でした。日本海軍最強といわれた厚木航空隊の司令は、「天皇の降伏の勅命は真の勅命でない」と声明を出し、”反乱軍”として戦闘体制に入っていたのです。

 これでは武装解除どころか、アメリカ軍との戦争再開の危機を招くことになります。反乱軍を解除させなければ、進駐軍との衝突が起きる可能性は大きくなっていきます。さらに戦争を終わらせたくない反乱軍としては、戦争終結のカギを握る緑十字機は敵であり、攻撃対象でした。

 徹底交戦に固執する彼らの存在は、戦争終結に必要な日本の占領と全武装解除の実行をより難しくしていました。

ソ連の侵攻

 そして正式な終戦をしていないことを理由に8月18日、ソ連が樺太に侵攻を開始したのです。日本の降伏が完了しないうちにと、北方四島への侵攻を進め、北海道の占拠をアメリカに主張するなど、まるで火事場泥棒のように北海島を占拠することを考えていました。北海道侵攻は、もう時間の問題だったのです。

 ソ連の侵攻を止めるために、日本は戦争終結の3条件を揃えることが急務でした。反乱軍の存在を隠した状態での困難な交渉、日本軍が派遣した降伏軍使はマニラで降伏文書を受け取り、アメリカ進駐軍を少しでも早く受け入れることができないと、ソ連に侵攻される危機にあったのです。

ほぼ不可能な日程

 反乱軍を隠しながら武装解除の時間を稼ぐ……アメリカ軍の進駐には、全武装解除が前提です。厚木航空隊が反乱状態にある事をアメリカに言えるはずもなく、反乱軍の武装解除を行う時間も必要で、まさに危機一髪という状況を抱えながらの交渉だったのです。

 時間を稼ぎながらも急がなければ、ソ連の侵攻は進んでしまいます。アメリカ側から指定された進駐日程は、受入態勢を整える日本にとって、まさに不可能と思われるタイトな日程でした。しかし、これができなければ戦争再開の危機と天皇の存在も危うくなるという、何があっても成し遂げなければならないミッションだったのです。

緑十字機の決死の飛行

 こうして緑十字機は「真の戦争終結」に向け、大空に飛び立つことに。マニラへと降伏軍師を運んで、天皇が署名する降伏文書の受取と進駐交渉を行います。そして降伏文書を持ち帰るという極秘ミッションに挑みます。しかし緑十字機の決死の飛行は、数々の予期せぬアクシデントに見舞われ、度重なる窮地に陥るものとなりました。

 フィリピンへの中継地として選ばれたのは沖縄県の伊江島でした。主席の河辺虎四郎陸軍中将をはじめとする全権使節団17名が2機に分乗して、千葉県木更津の飛行場から飛び立ったのです。

 2機は降伏反対派の妨害を避けるため、なるべく日本本土から離れたコースを選びます。まず、太平洋上を南に向かい、そこから沖縄を目指して西に進路をとりました。伊江島までのフライトは特に問題もなく順調で、屋久島上空からはアメリカ軍機の護衛がついて伊江島に到着しました。

敗戦国の扱い

 伊江島に到着した使節団は、そのまま伊江島を離陸してフィリピンに向かう予定でしたが、この先は日本軍機の安全が保証できないということで、米軍のC-52輸送機に乗り換えることに。

 そして日本は8月15日にポツダム宣言を受諾し、降伏には了承していたものの無条件降伏には納得していませんでした。そのためフィリピンで降伏条件に関する交渉を行い、少しでも有利な条件で降伏できるものと考えていました。それ故に、使節団のマニラ滞在は1週間が予定されていました。

 しかし、アメリカは交渉を譲歩することは全くなく、日本の無条件降伏は決定事項でした。そのため、使節団は何も言えず、結局はただ書類にサインをするだけでわずか1時間で交渉は終了。1週間の滞在どころか、たった1日でマニラを後にしたのです。

 無条件降伏文書への調印は、敗戦国の状況を思い知らされる結果となりました。失意の中で伊江島に戻ってきた使節団は、このまま島にとどまることも許可されず、到着直後に緑十字機に乗って日本への帰国命令を受けます。

度重なるトラブルを乗り越えて

 8月20日午後6時50分、2機の緑十字機は再び本土を目指すことになるのですが、このとき2番機が故障で出発が遅れることになります。結局1機のみで日本を目指す1番機には、屋久島までは米軍機が付けられましたが、そこからは単独飛行となりました。順調に飛行を続けていた緑十字機でしたが、潮岬沖で異常が発生したのです。

 伊江島で満タンだったはずの燃料が、残り1時間ほどでなくなってしまうという緊急事態。アメリカ軍が行った燃料補給の際、何らかの行き違いによって規定量の給油がされていなかったようです。燃料切れとなった1番機は、まもなく右のエンジンが停止。更に続いて左のエンジンも止まってしまい、高度3千メートルで完全にエンジン停止となってしまいます。しかしこの非常事態においても、パイロットは冷静でした。滑空飛行を続けた後の午後11時55分、静岡県の天竜川河口沖に無事着水したのです。

 水深が浅かったことも幸いしました。搭乗員たちは海に飛び込むと、降伏文書などの重要書類を濡らさないよう、使節団の人たちを背負って海岸へと到達。そして近くの民家に助けを求め、なんとか本部に連絡を取ることに成功しました。その後、住民の協力によりトラックの荷台に乗った一行は、無事浜松飛行場に到着。双発爆撃機「飛龍」に搭乗して、東京の調布飛行場へと戻って来たのです。

 まさに決死の飛行により、日本政府へ降伏文章を持ち帰ることに成功した使節団。開戦時から海軍航空隊の中核を支えた一式陸攻は、最後の任務を無事に完遂したのでした。

戦争を終わらせるために

 日本存亡の危機を救うため、日本政府からもGHQからも公表されないミッション、もちろん国民の誰もが知らなかった事実なんです。玉音放送が行われた翌日の8月16日~22日までの空白の7日間にはこんな出来事があったのです。

 この緑十字機の決死の飛行から、戦争を終わらせるということは、これほどまでに大変なことだったのかと思ってしまいます。国民に知らされることのなかった人々の奮闘により、現在の日本がギリギリのところでなんとか踏ん張ったこと、これはまさに奇跡であり、感謝でしかありませんね。

 ちなみに反乱軍となっていた厚木航空隊ですが、この後、司令がマラリアの再発により収監され、部隊の解体も無事に行われたのでした。そして1945年9月2日、東京湾に浮かぶ戦艦ミズーリの艦上にて正式な調印が行われ、戦争が正式に集結したのでした。

ミズーリ艦上における降伏文書調印式(出典:wikipedia)
ミズーリ艦上における降伏文書調印式(出典:wikipedia)

 2機の緑十字機による最後の任務は、誰にも知られていないものでしたが、これが成し遂げられたからこそ、日本は無事に降伏して戦争を終わらせることができたのです。

 今回取り上げた緑十字機による極秘ミッション。終戦となるお話を簡単にしてきましたが、実際はまだまだ謎めいた搭乗員による話があったり、不時着してから調布飛行場までの工程はまさに綱渡りで、多くの人たちの協力が重なって成功したものでした。できるなら、更に深い真実を知っていただきたいと願っています。

※Amazonのアソシエイトとして、戦国ヒストリーは適格販売により収入を得ています。
  この記事を書いた人
聖徳太子に縁のある一族の末裔とか。ベトナムのホーチミンに移住して早十数年。現在、愛犬コロンと二人ぼっちライフをエンジョイ中。本業だった建築設計から離れ、現在ライター&ガイド業でなんとか生活中。20年ほど前に男性から女性に移行し、そして今は自分という性別で生きてます。ベトナムに来てから自律神経異常もき ...

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