性格を表す言葉「天邪鬼（あまのじゃく）」、実は妖怪だった

あまのじゃくの正体

　「あまのじゃく」とは、本心とは正反対のことを発言したり、正反対の行動をとるような人のことを指す言葉。しかし元々は「天邪鬼（あまのじゃく）」という妖怪を指す言葉だったそうです。とはいえ、現代では人の性質を表す場合がほとんどですね。地域によっては、「あまんじゃく」と呼ばれることもあるそうです。

　昔の「天邪鬼」は、説話や伝説に登場してくる想像上の悪者のことでした。その実態は、妖怪とも精霊とも言えないような存在なのだとか。他人の心中を察することができ、口まねや物まねをして人の意図に逆らったりします。

　そしてその「天邪鬼」の正体は、悪鬼神（あっきじん）もしくは小鬼で、日本の妖怪の一種とされています。まあ、名前に鬼という漢字が入っていますので、おおかたの想像は付くと思います。いわば、鬼社会の小物といったところですね。

人間の煩悩

　「天邪鬼」は、仏教界において人間の煩悩を表す象徴とされています。四天王や仁王様に踏みつけられている餓鬼と呼ばれる鬼をご存知でしょうか？お寺で一度は見たことがあるのではないかと思います。まさに「天邪鬼」は、その餓鬼なんですね。

　また「天邪鬼」は、四天王の一である毘沙門天像（びしゃもんてんぞう）の鎧の腹部にある鬼面とも言われることもあるようですが、これは鬼面の鬼が中国の河伯（かはく）と呼ばれる水鬼に由来しているもので、どこまで「天邪鬼」と関係しているのかは定かではありません。

　同じく中国には、海若（かいじゃく）と呼ばれる水鬼がいるのですが、この字は「あまのじゃく」と訓読されることから、日本に古来からいる「天邪鬼」と習合されてしまい、足下で踏みつけられる鬼類をも指して言うようになったとの説もあります。

日本に古来からいる天邪鬼

　日本古来の天邪鬼は、記紀（古事記・日本書紀）に登場している天稚彦（あめのわかひこ）と天稚彦に仕える天探女（あめのさぐめ）に由来しています。

　国譲り神話の中では、高天原から天照大神の命により出雲平定のため、弓矢を授かって遣わされます。しかし大国主神の娘である下照姫（したてるひめ）と結婚して、高天原には8年も経って戻りませんでした。

　そこで高天原の神々は、詰問のために雉（きじ）を地上に遣わすことにしました。しかしそれを聞いた天探女は、天稚彦に進言して授かった弓矢を使って雉を射殺させたのです。ところがその矢が天から射返されて、天稚彦自身も死んでしまうのです。

　人の意にいちいち逆らうことをいう「天邪鬼」。日本固有の「天邪鬼」は、この天稚彦をそそのかしたとされる、天探女に由来するといわれています。

シャーマン的存在

　天探女は、その名前が表しているように、天の動き・未来・人の心などを探ることができるシャーマン的な存在でした。この神話が後に、人の本心を操る小鬼的な存在に変化していったといわれています。

　本来、天探女は悪者ではありませんでした。ところが天稚彦への進言が告げ口と解釈され、天からの司令を妨げる鬼となってしまったのです。そして「天邪鬼」になっていったとされているんですね。

　また、「天稚彦」は、読み方は「あめのわかひこ」とどちらも同じですが、「天若彦」・「天若日子」とも書かれるため、中国由来の「海若」と呼ばれる水鬼と混ざってしまったと考えられているようです。

様々な形に変化

　この「天邪鬼」、日本中の地方で様々な形に変化して説話として伝承されています。たとえば秋田県や茨城県などの多くの地域では、「天邪鬼」は木霊（こだま）や山彦（やまびこ）のことを言うそうです。

　更には、富山県や岐阜県など多くの地域で山姥（やまんば）を指していたり、巨人伝説として語り継がれているのだとか。そのため山頂に残る巨石や造られた経緯がわからない石垣などは、「天邪鬼」によるものとされているそうです。

現代での使われ方

　あまのじゃくは、今でも普通に使われている言葉です。素直ではない人やひねくれている人のことでしょうか？。実際には、自分に素直になれず、本心とは異なる態度を取ってしまう人のことを「天邪鬼」と言うようです。ただ、全ての人が意識的に、このような態度を取っているとは限らないそうですが…。

　個人や状況によってそんな態度をとる理由は異なるようで、自分の弱い部分を隠すために、わざと強がってしまったり、緊張をして自己コントロールができなくなってしまうことも、そしてただただ素直になれないなんていうパターンもあるようですね。しかしどんな場合も、相手を混乱させてしまうことは間違いないようです。

　「人の心を見抜いて悪戯をする子鬼」とされていたことから、現代では「多数派の思想や言動に逆らうひねくれ者」を指して、「天邪鬼」と称されるようになったようですね。