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二宮金次郎はなぜ銅像に?その生涯と銅像ブーム

 戦時中の金属供出により、銅像や鍋などが集められて武器として溶かされました。その中には当時、学校に置かれていた二宮金次郎の銅像も数多く供出されたそうです。

 そういえば、昔の学校には薪(たきぎ)を担ぎながら本を読む二宮金次郎像がありました。しかしなぜ、二宮金次郎像は学校にあったのか。「後に偉人になった」というけれど、具体的になにをした人なのか、今ひとつ伝わっていません。

 そしてなぜ、二宮金次郎は銅像になったのでしょうか?

そもそも二宮金次郎とは

 二宮金次郎は江戸時代、農村の復興と再生を行った農政家です。金次郎は子供の頃の名前で、号(ごう)が尊徳です。金次郎の家は貧しかったため、薪(たきぎ)取りや草鞋(わらじ)づくりで一家をささえました。

 金次郎は成長すると、その才覚で荒廃した農地の再生や経営の立て直しを行い、最終的には名主から幕臣にまでなった人物です。

 尊徳の死後は、弟子たちが尊徳の教えを記した「報徳記」によって、尊徳の人生と偉業が伝えられていきました。明治に入ると、小説家の幸田露伴によって二宮尊徳の功績が紹介され、「質素」「勤勉」の象徴となりました。

銅像ブームの背景

 そもそも、銅像は数多く作られるものではありません。支配者などはともかく、二宮金次郎のような一般人の像が量産されるのは極めて異例なのです。

 ではなぜ、二宮金次郎は大量につくられて、学校に設置されるようになったのでしょうか。

明治天皇も所有していた二宮金次郎

 明治天皇は、執務室の机に二宮金次郎のミニチュア像を置いていました。明治天皇ご自身も質素倹約を旨とした方で、鉛筆も小さくなるまで使い込まれ、冬はどんなに寒くても火鉢三つでしのいだとか。

 そのため、明治天皇は質素、勤勉を説いた二宮尊徳へ深い関心をお持ちだったそうです。

教科書に載った二宮金次郎

 明治天皇が敬愛したからか、二宮金次郎はその後、幼い頃のエピソードが国定教科書に掲載され、全国的に知名度があがってゆきました。

 薪を背負いながらも勉強をつづけ、やがて偉人となった二宮金次郎は、子どもたちに「質素」「勤勉」を伝える格好のアイコンだったのです。

 しかし、二宮尊徳は明治政府にとって敵である旧幕臣でした。そのため、明治政府は成長してからの尊徳の功績については伝えずに、子供の金次郎時代の質素・勤勉エピソードだけが強調されるようになったのだとか。

 私たちは「二宮金次郎ってなにをした人か」を具体的に教わることがなかったのですね。それでも、勤勉な二宮金次郎の人気は庶民にひろがっていき、昭和に入ると人々は自発的に二宮金次郎像を学校に設置するようになりました。

金属供出と二宮金次郎像

 昭和のはじめに全国に広がった二宮金次郎像ですが、庶民の間で流行した像だったため、戦時中の「金属回収令」では真っ先に供出のやり玉にあげられます。そのため、石像やコンクリート像以外の二宮金次郎像はお国のためにと溶かされ、武器になっていきました。

変化する二宮金次郎像

 二宮金次郎の像は素材や地域によって、二宮金次郎像のデザインには違いがあります。各地に残る像を調べたところ、背負うものが木の枝や薪、読んでいる本も数種類ありました。

読んでいる本の種類

 細部まで細かく作られている像には、本の内容までわかるそうです。調査によると、漢字のお手本帳である『千字文』や、金次郎少年が実際に呼んでいた思想書『大学』のほか、尊徳の教えを説いた『報徳訓』など、バリエーションに富んだ書籍が掘られています。

背負っている木の種類

 もともと、二宮尊徳が少年期に集めていたのは薪ではなく、細い木の枝でした。しかし、戦時中の金属供出で銅像から石像にかわり、石像では木の枝を彫るのが難しいため、薪に変更されたのだとか。

 以前、北海道の定番お土産である「木彫りの熊が現代風にアレンジされた話」 がありましたが、二宮金次郎像もまた、時代の流れにとともにさまざまな変化をとげています。

ネット時代の二宮金次郎像

 最近のネット時代を反映して、本の代わりにタブレットを読んでいる像や、「歩きスマホ」防止のため「座って本を読む二宮金次郎像」なども登場。

 時代の流れに応じて、質素・勤勉な二宮金次郎も新しいアイデアを取り入れたデザインに変化しています。

まとめ

 以前取り上げたハチ公像、そして、二宮金次郎像もまた、庶民の手で自発的に作られてから国の政策に利用された過去を持ちます。

 しかし、こうした庶民発信のアイコンは、その時代の人々に愛され続け、姿も時代に応じて変化を続けているのです。

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  この記事を書いた人
日月 さん
古代も戦国も幕末も好きですが、興味深いのは明治以降の歴史です。 現代と違った価値観があるところが面白いです。 女性にまつわる歴史についても興味があります。歴史の影に女あり、ですから。

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