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日本を太平洋戦争に突入させた「人造石油の開発失敗」 エネルギー問題と日本

 1970年代に「オイルショック」というものが起こりました。原油の供給が戦争によって逼迫、原油価格の高騰を引き起こし、世界経済全体が混乱に陥ったのです。これは「世界経済は石油で成り立っている」ということの証明でもありました。

 その後、原子力発電などの新しいエネルギー獲得法が開発されましたが、それがいかに危険なものであるかはチェルノブイリ、スリーマイル島、福島第一などの原子力発電所の事故が物語っています。ジェームス・ワットが蒸気機関というものを発明し、産業革命が起き、内燃機関である「エンジン」が発明されると「燃える液体」が必要不可欠な物となったのです。

 しかし何か天然石油の代替物はないのでしょうか?実は有るのです。それを「人造石油」と言います。簡単に言えば、天然ガスや石炭を液化したものです。この技術は随分と古くから確立されていたのですが、大きな問題がありました。それは「天然石油を買うよりも高くつく」こと。つまり、生産コストが莫大な額になるのです。

第二次世界大戦におけるナチスドイツのエネルギー源

 第二次世界大戦でナチスドイツが横暴を極めたのは周知の事実ですが、ドイツは産油国ではありません。それなのに戦車や飛行機、潜水艦、軍用車などを大量に保有して使っていました。

 一体、ナチスドイツはどうやって石油を手に入れていたのでしょうか?実はナチスドイツは人造石油を大量に作っていたのです。もちろん莫大なコストがかかりましたが、それは全てヒットラー率いるナチスドイツが負担しました。戦争遂行に必要なので「金に糸目をつけなかった」訳です。

 当時、ナチスドイツが運用していた人造石油の生産方法は日本にも伝えられ、日本でも人造石油の生産プロジェクトが発足、量産化を目指しました。これが成功すれば日本は資源を他国に頼らなくても良くなります。なにせドイツで成功している技術です。当時の日本でも「多分、うまくいくだろう」と思われていました。

近衛文麿内閣に入った一通の報告

 昭和16年(1941)第3次近衛文麿内閣に一通の報告が入りました。その内容は「残念ながら人造石油の開発に失敗した」というものでした。それを聞いた陸軍大臣、東条英機は激怒して、こう言ったそうです。

「日本が物盗り(南方の石油)へ今後進まざるを得ず、陛下に対して申し開きできないではないか!」

1941年8月27・28日両日に首相官邸で開催された『第一回総力戦机上演習総合研究会』に東条英機も陸軍大臣として参加していたのですが、結論としては「米国と戦えば日本は必ず負ける」でした。その「必ず負ける戦争」を起こさざるを得ないと東条英機が決断してしまったのは、その一通の報告が入ったことが大きな要因となったのです。

 その後、東条英機は戦争に向かって突っ走り始めます。もう外交的手段では事態を収拾できないと諦めた近衛文麿は辞表を提出し、第3次近衛文麿内閣は総辞職となり、東条英機が次の総理大臣となります。後は皆さんご存じの通りです。

 「エネルギー問題」というのは、負けると分かっている戦争でもしなければならないと思わせてしまうほどに、日本にとって重大な問題であり、それは現在でも変わらない事実なのです。むしろ現代の方が大変だと言えるでしょう。

現在の日本の石油事情

 現在、日本ではガソリンスタンドに行けば、ガソリンや灯油を手に入れられます。しかし、現在の日本で流通している石油の半分は実は「人造石油」なのです。その原材料は米国の「シェールガス」と呼ばれる天然ガスです。

 シェールガスの液化研究は原油価格が上がると盛んになり、下がると下火になっていたのですが、原油価格が「高止まり」した時点で採算が取れる基準に達し、実用化されたのです。ですが、米国からの輸入のため、円安ドル高の場合、へたすると天然石油よりも高くつくことになってしまうこともあります。また元はと言えば、シェールガスも天然ガスですから、化石燃料である天然石油と同じようなものとは言えるのです。

 一時、日本ではメタンハイドレードという海底にある固体メタンに注目が集まった事がありましたが、残念ながらメタンハイドレードは「薄く広く」分布しているため、海底から集める手間賃を考えると、とても採算が合わず、事業化計画はありません。また、オーランチオキトリウムという藻類が「石油を作る」ということで注目を浴びましたが、オーランチオキトリウムに石油を作らせるにはブドウ糖を与える必要があり、そのコストを考えると、これも採算が取れず事業化の目途は立っていません。

 つまり、色々な方法が考えられてきたけれど、結局は天然資源に頼らざるを得ない、というのが現在の日本のエネルギー事情なのです。もし、皆さんがガソリン1Lが500円でも構わない、というのであれば話は別ですが。

 一方、日本ではハイブリッド自動車や電気自動車が実用化され始めています。電気自動車ならガソリンはいりませんが「電気」が必要です。そして電気は発電所で発電しなければ得られません。水力発電は既に可能な場所には全て作った状態ですし、原子力発電が危険視されている現在では火力発電所にもっと発電してもらうしかありません。

 そのためには燃やす物が必要なのです。更に火力発電所は Co2 を大量に発生させるので地球温暖化問題を更に加速させてしまう結果ともなるでしょう。

再生可能エネルギーとは?

 太陽光発電、風力発電、地熱発電、波力発電など色々な発電方法がありますが、現代日本の「あまりにも凄すぎる電力需要」を賄えるものは存在しません。太陽光、風力、波力は発電量が不安定で地熱発電は大量の発電ができないからです。

 こういった発電方法を「再生可能エネルギー」と呼びますが、要は「いつか尽きてしまう天然資源を使わない」というだけの話で、どれも発電の主役になるには役不足なのです。もちろん、多少なりともの貢献はしてはくれるのですが、原子力、火力にとって代われるだけの発電力は残念ながらありません。一体、私達はどうすれば良いのでしょうか?

すぐそこ、で行われていること

 昼間、空を見上げれば太陽が見えます。地球は太陽から大量のエネルギー供給を受けていることはご存じかと思いますが、太陽はなぜ、ずっとエネルギーを放出し続けていられるのでしょうか?

 太陽というのは「水素元素の塊」です。そして水素元素は目に見えない位に小さな物質ですが、物質である以上、僅かな重力を持っており、大量の水素元素はお互いに引き合っているのです。そんな水素元素が「人間のイメージできる数値を遥かに超えた数量」で集まっているのが太陽なのです。

 その太陽の中心ではわずかな重力が重なり合った結果、人間の表現単位で言うと「圧力は2500億気圧、温度は1500万 K」という環境になってしまうのです。この環境になると「核融合」という現象が発生します。そして、この核融合というのが太陽エネルギーの源なのです。もし、この格融合を人類が出来るようになったらどうなるでしょうか? 

核融合と核分裂

 格融合と似た言葉に核分裂というのがあります。これは聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。原子爆弾や原子力発電所は、この「核分裂」という現象を使ってエネルギーを得ているのです。

 核分裂も核融合もアインシュタイン博士の提示した e=mc2 (エネルギーの放出量=物質の質量×光の速度の二乗)という式に則って起こる現象です。つまり「物質はエネルギーの塊であり、その物質が物質でなくなると持っているエネルギーは放出される」のです。

 核分裂ではウラン235、プルトニウムという物質が使われますが、ウラン235もプルトニウムも一定以上の量が集まると「臨界反応」というものを起こし、元素崩壊して物質ではなくなってしまうのです。ですので大量のエネルギーが放出されるのです。

 原子爆弾は、それを武器として使い原子力発電所は、それで水をお湯にして蒸気を発生させ発電タービンを回して発電しているのです。しかし元素崩壊させることのできる物質は元素周期表92番(ウラン)以降の物質だけで、それらは全て多かれ、少なかれ放射性物質と呼ばれる、人類に危険な放射線を発する物質なのです。

 その一方、核融合反応は元素周期表の1番(水素)から25番(マンガン)までの物質でしか起こせません。つまり核融合反応は放射性物質とは無縁なのです。同じ「核」という文字が付いているのですが、人類にとって核融合は安全であり、核分裂は危険なものなのです。

 これまで多くの物理学者が地球上で水素元素で核融合反応を起こす実験を繰り返してきました。もし、これに成功すれば人類は太陽のように、水素を原料に人類が永続する限り尽きることのないエネルギーを手にできるからです。

 しかし全て失敗しました。「圧力は2500億気圧、温度は1500万 K」という環境はとても人類には作り出せませんでした。ただ、科学が進歩すると科学者達は「あらたな可能性」に気が付いたのです。

中性子の発見と同位体の発見

 1929年に中性子という物が発見されました。中性子という物は元素を構成する「中心の原子核」でも「回っている電子」でもありません。物質を構成する元素は全て「原子核と電子」で成立しているので、中性子という物はなくても良かったのです。

 実際、地球という惑星は惑星全体が磁石になっているので、惑星周辺に「バンアレン帯」という磁気帯があり、さらに大気圏があるので、それらが宇宙から中性子が入ってくるのを防いでいます。このため、地球上では中性子が非常に少なく簡単には発見できませんでした。しかし中性子の研究が進むと、元素の原子核に中性子が飛び込んでしまうことがあることが分かりました。

 例えば水素元素に中性子が1つ入りこんだものがあり、これを「重水素」と呼びます。また地球上には存在しませんが、中性子が2つ入り込んでしまうこともあり、これを「三重水素」と呼びます。そして、こういった中性子が飛び込んだ状態の元素を「同位体」と呼びます。

水素元素と水素の同位体元素
水素元素と水素の同位体元素

 そして「同位体なら核融合が出来るのではないか」という研究が始まり「単純な水素元素同士よりも遥かに簡単に出来そうだ」ということが分かってきたのです。そして中性子が人体に有害であることも分かってきました。この時、人類はバンアレン帯と大気圏の存在の有難さに初めて気づいたのです。

同位体同士による核融合の実験

 現在、フランスのIterという施設が核融合の実験を行う準備をしています。Iterでは重水素と三重水素を「核融合」させる実験が行われる予定です。三重水素は「地球上に存在しない」ので、水素元素に中性子を叩き込んで作る予定です。

 このプロジェクトには日本も含む欧米各国も参加しており、成果が期待されています、と言いたいところですが、実は仮に「重水素と三重水素」で核融合反応を起こし得たとしても、どちらの同位体も地球上では「発電を行うほどの量」はとても採取できないのです。つまり「成功しても原材料が無い」のです。更にIterでは「重水素と三重水素で核融合」をさせる予定ですが、実は「もっと簡単に核融合を起こせる組み合わせ」が見つかっています。それは「重水素とヘリウム3」の組み合わせです。

 ヘリウム3とは水素の次のヘリウム元素に中性子が2つ入り込んだ物で、地球上には存在しませんが、この2つの組み合わせが「最も簡単に核融合を起こせる組み合わせである」ことが分かっています。さらに有難いことに「重水素とヘリウム3」の組み合わせで核融合」を行った場合、放出されるエネルギーは「電気エネルギー」なのです。つまり、「そのまま電気として使える」のです。そして、その発電量は一基で、現在の原子力発電炉一基分の6倍から7倍あることも分かってきています。

ヘリウム3の元素構造図
ヘリウム3の元素構造図

同位体の争奪戦は既に始まっている

 地球という惑星には中性子が非常に少なく、同位体は採取できません。しかし、実は手の届く所に無尽蔵に有ります。

 それは月面です。月は地球と違い、バンアレン帯も大気圏もありませんので宇宙から中性子が沢山、降ってくるので重水素、三重水素、ヘリウム2、ヘリウム3という同位体がたくさん存在しているのです。そしてそれは、やむことなく降り続けているので、まさに無尽蔵と言えます。つまり月に行けば核融合の原材料は簡単に手に入るのです。

 現在 Iterが行っている実験は、将来、月面から重水素とヘリウム3が採取できるようになった時に核融合発電が行えるよう、あらかじめ技術的な基礎を築いておくのが目的なのです。

 と言う訳で近年、米国、中国、ロシア、EU宇宙連合が、相次いで「月面に基地を作る」という計画を発表しました。真の目的は「重水素とヘリウム3」なのですが、それを言ったら「あからさま過ぎる」ので、米国は「有人宇宙船の建造基地だ」と言っていますし、中国もロシアもEUも露骨なことは言っていません。それまでは米国でも「月に行ったところで何になる」と言われており、宇宙開発の予算は年々、削られていたのですが、ここへきて急転直下、バイデン政権は「月を目指す」と明言する事態となったのには、こんな裏事情があるのです。つまり「月を制するものは電力を制する」のです。

 現実には月面に核融合施設を作って発電し、発電した電気をレーザーに変換して地球に送り、地球に電源供給するというやり方が最も効率が良いと言われており、その研究もされています。残る問題は、核融合の基礎技術と、月に行く方法と、基地を作る方法だけです。

あとがき

 ここに書いたことは決して夢物語ではありません。現実です。人類は月面に核融合発電設備を作ることが出来れば、遂に安全で安価に大量の電力を安定供給できるようになるのです。もちろん、米国、EU、ロシア、中国という競走相手がいますが、地球という惑星に無尽蔵で無料の原料を使って大量の電力が得られるようになるのに国によって差が出ることは許されないでしょう。

 最初は分かりませんが、人類の理性をそこまで見損なってはいけないと思います。ですが、月面に核融合発電所が出来るのは、まだまだ先の話です。ですが、案外に30年後くらいかもしれません。もしかしたら10年後? あり得るかもしれません。これは「人類の未来における最大の問題を解決する唯一の方法」なのですから。

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  この記事を書いた人
なのはなや さん
趣味で歴史を調べています。主に江戸時代~現代が中心です。記事はできるだけ信頼のおける資料に沿って調べてから投稿しておりますが、「もう確かめようがない」ことも沢山あり、推測するしかない部分もあります。その辺りは、そう記述するように心がけておりますのでご意見があればお寄せ下さい。

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