業界の神様 先端技術も守備範囲、各種業界を見守り応援して下さる神様たち

 日本には八百万の神々がいらっしゃいます。これらの神々は衆生にさまざまな恵みをもたらされますし、もちろん真面目に働く人間も見守って下さいます。

日本人にとって仕事は罰じゃない

 現代では「働いたら負け」と嘯く輩がいたり、労働は神の教えに背いて知恵の実を食べた人間が負う原罪との考えもありますが、多くの日本人は労働をそのようには捉えません。むしろ神から与えられた神聖な作業と受け止めました。

 日本で古くから行われてきた労働は ”稲作” です。日本の最高神・天照大御神が孫である瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が人間界へ下るときに、三種の神器とともに稲穂を与えます。そしてこの稲穂を子々孫々まで大切に守り育てるように諭されます。

 このように稲を育て、子孫へ伝える農作業は神様からゆだねられた大切な仕事でした。稲作に関しては、お田植神事やその年の初穂を神様に供える、収穫を感謝する祭りなどは全国で行われ、稲作と神様は固く結びついています。宮中でも新嘗祭が執り行われますからね。

 米を作る苦労は決して罰ではなく、神様から頂いた稲穂を枯らすことなく、次代へ伝えていく尊い作業でした。日本人の労働感はここから始まっているようです。

業種別応援の神々、最先端技術系もサポート

 人間働いて社会貢献・自己実現をしてこそナンボ。この考えは現在の日本にも生きています。そしてそんな日本人の働きぶりを応援してくださる神様が、なんと業種別に控えていらっしゃるのです。最先端の電気・通信業界にもちゃんと見守ってくださる神様はおられます。

電電明神

 電気・IT・放送業界の神様はその名もズバリの電電明神(でんでんみょうじん)様です。十三参りで有名な京都市西京区法輪寺の境内にあり、日本で唯一の電気電波の神様が電電宮に祀られています。

 奈良時代、この地に明星が降り注ぎ、虚空蔵菩薩が顕現、これをご本尊として寺を建立、その鎮守社に明星社が建てられます。この明星社に祀られたのが電電明神です。その後、明星社は消失しますが、昭和31年(1864)に電気・電波の業界関係者が電電宮護持会を立ち上げ、業界の守護神電電宮として祀られるようになりました。

 この護持会には朝日放送・毎日放送・京都放送などの放送各社を始め、ドコモ・ソフトバンク・KDDIの通信大手、パナソニック・トヨタシステムなど、日本を代表する事業者が名を連ねています。神社のお守りは虚空蔵菩薩の画像データが入った「マイクロSDカードお守り」で、携帯の待ち受け画面にすれば不意の故障やトラブルなどが防げるそうですよ。以前は8GBでしたが今は16GBと容量も進化しています。

京都法輪寺の電電宮
京都法輪寺の電電宮

神様と天候は親和性が高い、気象予報の神様

気象神社

 思兼神(おもいかねのかみ)と言う気象予報の神様もいらっしゃいます。

 東京都杉並区高円寺氷川神社末社の気象神社で、天気予報の神として思兼神を祀っています。天候に関しては雷神・風神が存在し、悪天候は疫神の祟りとも言いますから神様とは親和性が高いようです。

 この神様は八意(やごころ)思兼神とも呼ばれる知恵の神で、天照大御神が天の岩戸に隠れたときに、引っ張り出し作戦の立案から実行までを取り仕切った神として知られます。ご神名の八意は様々な立場から考え、思兼は多くの思慮を兼ね備えるを意味する優れて賢い神様です。

 すべての事象に目を配り、先を見通し、太陽神の天照大御神を連れ戻したことから天気とのかかわりが深いとされます。天気予報の神として祀るのはここ一社ですが、学問の神としては全国各地の神社で祀られています。

 毎年気象記念日の6月1日に例祭が行われ、天気予報が的中するようにとの祝詞があげられますが、残念ながら気象庁とは関係ありません。関係を持ったのは高円寺にあった陸軍気象部です。軍事作戦を立案するのに天気予報は欠かせませんからね。

 戦前日本軍の部隊は各兵営に神社を建てることが多く、営内神社と呼ばれましたが、敗戦により軍部の消滅とともに姿を消します。陸軍気象部の営内神社だったこの社も敗戦時に壊されるはずでした。ところが連合軍が日本政府に対して発した神道指令、つまり国家神道の廃止、政治と宗教の分離などの覚書に基づく調査ですが、何とこの神社はその調査から漏れてしまいました。

 まったくの偶然で生き残った神社は、これを聞きつけた第三気象連帯戦友会などが申請して払い下げを受け、高円寺氷川神社の宮司により現在地に遷座されます。

 現在は合格率4%の国家資格気象予報士を目指す人たちの参拝が絶えません。

倉庫の神様もいらっしゃる

 倉庫の神様もいらっしゃいます。高倉下命(たかくらじのみこと)とおっしゃるこの神は、瓊瓊杵尊に先立って天下った邇芸速日命(にぎはやのみこと)の子供で、紀州熊野地方の神となっておられました。

 神武天皇が東征のおり、熊野の山中で毒気にあたり難儀していた時、天照大御神は剣を送って助けようとします。ちょうど熊野にいた高倉下命の夢に「そなたの倉の中に神剣を下したのでそれを以って神武天皇を助けるように」と告げます。よく朝目覚めた高倉下命は自分の倉の中で神剣を発見、すぐさま天皇に献じ、この神剣の力で神武天皇は熊野の荒ぶる神々を平らげます。

 和歌山県新宮市にある神倉山(かみくらやま)は、神武天皇が登った天磐盾(あめのいわたて)と伝えられ、高倉下命が神剣を捧げた地です。このことから高倉下命は倉を守る神となりますが、倉は食物や家財・武器をしまっておく大事な建物で、高倉下命の御神名は神を祀る高い倉の主の意味です。

 その後、七代目の子孫である倭得玉彥命(やまとのえたまひこのみこと)が三重県伊賀の地に移り住み、祖神を祀ったのが現在の高倉神社の始まりです。

 高倉神社では毎年7月13日に倉暉祭(そうきさい)を営なみ、この祭りには全国各地から倉庫・運輸業界の業者が参列し、物流・倉庫業界の発展を祈願します。境内には社団法人日本倉庫協会の鎮魂之碑が建てられ、永代特別祈祷者名には全国の有名な倉庫・運輸関係企業がずらりと並んでいます。

 このほかにも金融やアパレル・不動産・サービス業・ダムに石油、もちろん稲作や酒造り・味噌造りなど多くの業界見守りの神様がいらっしゃいます。

おわりに

 「働く」という字は「人」偏に「動」と書きます。この漢字は中国からやって来たものではなく、鎌倉時代に作られた日本オリジナルだそうです。人偏に罪じゃなくて良かったです。


【主な参考文献】
  • 瀧音能之『仕事の神様大事典』(宝島社/2020年)
  • 三橋健 /編・著、白山芳太郎 /編・著『日本神さま事典』(大法輪閣/2016年)

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  この記事を書いた人
ichicokyt さん
Webライターの端っこに連なる者です。最初に興味を持ったのは書く事で、その対象が歴史でした。自然現象や動植物にも心惹かれますが、何と言っても人間の営みが一番興味深く思われます。

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