━━大阪城:幸村の陣━━
フォフォフォ。久しぶりじゃのう、源次郎。
叔父上、ご無沙汰しております。本日はどういった用件で参られたのでございますか?
(わざわざ危険を賭してくるとは。大体察しがつくな・・。)
そなたの働きは我らが徳川陣営にも伝わっておるぞよ。大御所様(=家康)も敵ながらとそなたの策に感服しておる様子じゃ。
・・・(やはりそうきたか・・)。
どういうことでございますか?
フォフォフォ・・。率直に申そう。大御所様に仕えぬか?
大御所様はそちをとても高く評価しておる。もし仕えてくれるなら信濃国三万石を遣わすと仰せじゃ。いかがなものじゃ?
一族の誼みをもっておいでいただきましたこと、誠にかたじけなく存じます。
しかし、それがしは関ヶ原の役からは家康公とは御敵となり、その後は高野山で落ちぶれて草臥れていました。それが秀頼公にこうして召し出されて今に至るです。
それ故、それがしは秀頼公との約束を破って家康公に仕えることはできません。
武士とは忠義によって身を立てるもの・・。これを破ることは道理にはずれることじゃ。しかし、わしも大御所様への忠義でこうしてそなたを誘っているのじゃよ・・・。
こうして信尹は家康の元へ帰り、そのいきさつを復命した。
━━大阪城周辺:家康の陣━━
ほほう・・・。そういうことであれば致し方ないのう。しかし、誠に惜しい武人じゃ。
・・信尹よ。命を救いたいという、このわしの思いを伝え、信濃一国を遣わすことで仕えるように再びたずねて参れ。
家康の命をうけた信尹は再び、幸村のところへ赴き、説得にあたった。そしてこれを伝え聞いた幸村は・・・
━━大阪城:幸村の陣━━
家康公のお言葉、誠にありがたきことです。しかし、それがしにはどれ程の領地を賜ろうとも秀頼様を裏切ることはありません。
なにゆえに・・?
それがしは・・はじめから討死覚悟で臨んでおります。
秀頼様への忠義、そして武士として、一族としての誇りがあるのです。
叔父上、これ以上のことは・・・。もう会うこともございませぬ。このままお引き取り下され。
もうなにも言うまい・・・。
信尹は涙して幸村と別れ、家康の元に戻り、すべてを伝えた。すると家康は・・
━━大阪城周辺:家康の陣━━
なんとあわれな。筋の通った性分か。まさに日本一の勇士じゃ。安房守(=昌幸)にも劣らぬ男じゃ。
こう言って称賛したのであった。