日本刀ができるまで ~刀の作り方を解説!
- 2021/11/24
「折れず・曲がらず・よく切れる」。およそ刃物に求められる機能の、理想形を実現したといわれる日本刀。刀匠が魂を込めた鋼の造形は、本来求められた武器としての働きを超え、芸術品としての影響力をもつに至りました。
そんな日本刀ですが、いったいどのようにして造られるのでしょうか。また、材料やその組み合わせなどは、どのようなものがあるのでしょうか。専門的なことになると実に複雑で難解な作刀のプロセスですが、本コラムではそのアウトラインを概観し、「へえ!刀って、こんなふうに造るんだ!」と興味をもって頂くことを目指して解説したいと思います。
そんな日本刀ですが、いったいどのようにして造られるのでしょうか。また、材料やその組み合わせなどは、どのようなものがあるのでしょうか。専門的なことになると実に複雑で難解な作刀のプロセスですが、本コラムではそのアウトラインを概観し、「へえ!刀って、こんなふうに造るんだ!」と興味をもって頂くことを目指して解説したいと思います。
原料は“砂鉄”
日本刀の原料はもちろん鉄ですが、なかでも“砂鉄”を用いることが知られています。集めた砂鉄を「たたら」という炉で沸かし、高純度の「玉鋼(たまはがね)」という日本刀原料を作りだします。なぜ砂鉄だったかという疑問については、日本ではまとまった量の鉄鉱石が採掘できる鉱山に恵まれなかったことが挙げられます。また、高火力を生み出す石炭も大量には採れなかったため、木炭による火力で砂鉄を沸かして鉄を生成していたのです。
砂鉄は粒子が細かく、石炭に比べると低温である木炭でも短時間で還元することが可能です。しかも、この 低温+砂鉄 という特殊な工程によって、不純物含有率を抑えた高純度な鉄を生み出すことに成功したのです。
「玉鋼」という言葉そのものは明治期以降に登場した呼び方ですが、古来より刀工たちはいかに日本刀に適した鋼を得るかという課題に取り組み、その組成は秘伝中の秘伝となったとされています。現代の刀工の中には、古来の鋼のあり方を研究するため、あえて玉鋼を用いずに作刀する方もおられるそうです。
いずれにせよ日本刀に用いられる鋼は、環境と歴史とたゆまぬ創意工夫が生み出した、至上の金属といっても過言ではないでしょう。
ひたすら叩いて成形する!
作刀することを「打つ」というように、日本刀は終始ハンマーで「叩く」ことによって生み出されます。金属を溶かし、鋳型に流して成形することを「鋳造(ちゅうぞう)」、叩いて形作ることを「鍛造(たんぞう)」といいますが、日本刀は一貫して鍛造による製品となっています。成形に至るまでの工程以前にも、たたら製鉄で得られた玉鋼を加熱しながら何度も折り返して叩き、不純物を取り除くとともに炭素の含有量を調整していきます。
炭素が少なくなることで鉄は軟らかくなり、しかも加工ができる「可塑性(かそせい)」を獲得します。反対に炭素量が増すと、硬くなりますが、その分脆弱になります。したがって、強靭かつ粘りのあるちょうどよい状態へと鋼を調整することが必要となります。
鍛造の様子を撮影した映像などでは、刀匠が金床を鎚でトントンと叩き、左右から交互にお弟子さんが大鎚を振り下ろす光景が見られます。あれは刀匠が鎚でリズムを指示し、その通りに間断なく叩くという分担であり、組織が均一になるように加圧するのには熟練の技が必要といいます。
強さの秘密は硬・軟の二重構造!
日本刀が実現した「折れない」ことと「曲がらない」ことは、本来矛盾する性質を両立させたものであることが知られています。その矛盾とは、鉄は折れないことを目指して弾力を持たせすぎると武器として機能しなくなり、曲がらないことを目指して硬くすると、その代わりに脆くなってしまうことに起因しています。
例えばガラスとゴムを想像してみてください。
ガラスは鋭く、物体を切ることもできますが落とせば割れてしまうという脆さを持っています。ゴムは柔軟なため落としたとしても無事ですが、その代わり物を切るような強さはありません。刀は、いわばこのように二律背反する性能を兼ね備えることを求められたのです。
そこで古来の刀工たちが編み出したのが、部位ごとに硬度の異なる鋼を巧みに組み合わせるという方法でした。さまざまな技法や造り方がありますが、ざっくりと説明するとこうです。
切断するための刃、つまり外側の部分には硬い鋼を、内部の芯となる部分には軟らかめの鋼を用いています。こうすることで刀は鋭さと粘りの両方を獲得し、「折れず・曲がらず」という究極の課題を克服したのです。
「焼き入れ」という“熱変性”の力を利用する
刀にはその身に美しい「刃文」が浮き出ていますが、これは「焼き入れ」という工程によって生み出されるものです。焼き入れとは、成形した刀を再加熱し、水で急速に冷却することで硬度を増す技術のことです。しかし前述した通り刃の部分は硬く、棟方向の部分は粘りをもたせたいため、均質な温度で加熱することを避ける工夫が求められました。
そこで編み出されたのが、粘土に炭や砥石の粉を混ぜたもので刀をコーティングする「土置き」という技法です。つまり、よく加熱したい部分には薄く、そうでない部分には厚くコートを施すことで、意図的に「焼きむら」による温度差をつくりだすのです。
刃文はまさしくその焼きむらの結果生じるものであり、さまざまな土の置き方によって特徴的な刃文があらわれるため、刀工を特定するための手掛かりになることもあります。
このように、日本刀は異なる硬度の鋼を組み合わせて鍛造し、再加熱からの急速冷却を施すため、収縮により成型時よりさらに棟の方向に「反る」ことが知られています。あの優美な曲線は、焼き入れという入魂の技にも支えられているのですね。
おわりに
刀身が打ちあがっても、もちろんそれで終わりではありません。さらに鏡面を思わせる超絶的な研ぎを経て、柄や鍔、そして鞘などの外装を施されます。実に多くの匠の技が集約されており、鑑賞の際にはぜひ、伝統に裏打ちされた職人技に思いを馳せてみてください!
【主な参考文献】
- 『歴史群像シリーズ【決定版】図説 日本刀大全Ⅱ 名刀・拵・刀装具総覧』歴史群像編集部編 2007 学習研究社
- 『図鑑 刀装のすべて』 小窪 健一 1971 光芸出版
- 『別冊歴史読本 歴史図鑑シリーズ 日本名刀大図鑑』本間 順治監修・佐藤 寒山編著・加島 進協力 1996 新人物往来社
- 『日本刀 職人職談』 大野正 1971 光芸出版
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