「にえ」「におい」?「地鉄」に「刃文」? 刀剣用語をさくっと解説!

 時ならぬ刀剣ブームの恩恵もあり、全国各地の博物館や美術館で名刀に関する特別展が目白押しとなっていますね。これまでは一部の愛好家の趣味というイメージだった刀剣鑑賞ですが、女性や若い人など新たなファン層へと裾野が広がりをみせています。

 たとえ何の予備知識も持たずに目にしたとしても、日本刀のもつ研ぎ澄まされた品格と、そこに宿る気魄のようなものに心が揺さぶられる体験をする人が後を絶たないといいます。しかし、刀剣を解説する文章の中には専門用語がふんだんに使われており、ややもすれば呪文のように聞こえてしまうこともまた事実です。

 そんな難解な刀剣用語ですが、実は刀の見どころをピンポイントで言い表す、優れた表現方法でもあるのです。細かい意味は分かりにくくても、刀のどういったところに注目すればよいのかを指し示すヒントとして、用語のおおよそだけでも覚えるとさらに刀剣鑑賞が楽しくなるでしょう。

 本コラムでは、そんな刀剣用語を四つ取り上げて、そのアウトラインを解説します!

刀身には複雑な「模様」がある

 まず、実際に博物館などで刀の展示を目にしたとしましょう。おそらく抜身の本体のみが展示ケースの中、刀架に鎮座していることが多いでしょう。最初に、その鏡のような澄明な輝きに圧倒されるかもしれません。そして優美な曲線をもったえもいわれぬ姿とバランスの妙に、ため息も忘れて見入ることでしょう。

 そこまで刀の魅力を感じられたら、次はぜひできるだけ近づいて、よくよく刀の表面に目を凝らしてみてください。専門の展示スペースでは、絶妙な光源を当てて刀がよく見えるようにしてあるはずです。すると、「鏡のような」と思った刀身表面には、実はさまざまな模様が浮き出ているのに気付くはずです。そう、刀には鋼の色単一ではなく、複雑な景色が現れるのです。

 これは刀匠が鋼を何度も何度も折り返しては叩くという「折り返し鍛錬」によって、刀身が層構造をもつことで生まれる模様です。刀剣ではこの模様が重要な鑑賞ポイントとなり、端的にその様子を表す独特の専門用語が使われています。以下にみてみましょう。

「沸え(にえ)」とは?

 刀身には「焼き入れ」を施すことで様々な形の刃文が出ますが、よく見るとそれは微細な粒子状の模様が集まってできています。その様子を大きく二つに分けて表現しますが、ひとつを「沸え(にえ)」といいます。

 「沸え」とは刃文を形作っている粒子がやや粗めで、目で見てそうと分かる大きさであることを示す言葉です。例えば、天の川が無数の星々で成り立っている様子が見えるような雰囲気、と言えるかもしれません。

 このような傾向が強い刃文の刀を「沸出来(にえでき)」といいます。沸えがはっきりしていることを「深い」といい、解説文で「沸え深く…」などと書かれていればそのことと分かりますね。

「匂い(におい)」とは?

 「匂い」は上記の沸えとは逆に、刃文を構成する粒子がとても細かい状態であることを示すものです。

 それはひとつひとつを肉眼で捉えることが困難なほど小さいため、集合してまるで霧がかかったように見えるものです。そんな傾向が強いことを「匂出来(においでき)」といい、刀の地肌と刃文との境界を「匂口(においぐち)」といいます。

 境界がはっきりと分かるものを「締まる」といい、逆にぼやけた雰囲気であれば「ねむい」と表現します。

 「匂口締まり…」などと解説されていれば、霧のような刃文の境目がはっきりとした刀であることが分かります。

「地鉄(じがね)」の鍛え肌

 折り返し鍛錬によって刀身の表面に模様が出ることは先に述べましたが、それは製作法によっていくつかのパターンに分類されます。

 「地鉄」とは刀身そのものの部材で、そこに現れる層状の模様を「鍛え肌」という言い方で表します。木目のように見えることから、縦方向にまっすぐな模様のものを「柾目(まさめ)肌」、板の表面のようなものを「板目肌」、輪切りにした木の年輪のようなものを「杢目(もくめ)肌」と呼びます。

 また、波のような模様の「綾杉(あやすぎ)肌」もあり、これら鍛え肌は刀匠や刀工集団によって大きく特徴が出るところでもあるため、製作者やそのグループを特定するためのヒントになるものです。

「刃文(はもん)」の種類

 「刃文」とは刀身を再加熱したのちに急速水冷することで硬度を高める「焼き入れ」の温度差で生じる、焼きむらの痕跡です。

 焼き入れの際には刀身に硬度差を生み出すため、各部で厚さを変えて「焼き刃土」を塗りますが、この土の置き方によって刀工は意図した形の刃文を生じさせます。まっすぐな刃文を「直刃(すぐは)」、波打つような曲線のものを「乱れ刃(みだれば)」と大別し、乱れ刃はさらに細かい形に分類されていきます。

 刃文にも特定の刀工や集団が得意とするものがあり、これも製作者を特徴づけるもののひとつとなります。例えば、乱れ刃の中でも比較的規則性のある波状文様を「互の目(ぐのめ)」といいますが、これが山の形に尖って連続する「三本杉」は名工・孫六兼元の代名詞ともされています。

 まだまだたくさんの刃文がありますが、まずは大きな見どころのひとつとして意識してみてくださいね。

おわりに

 刀にはひとつとして同じものはないため、すべて形や景色が異なります。そんな中でも、パターンや特徴が色濃く表れる部分には刀剣鑑賞の醍醐味が詰まっているといえるでしょう。

 少しとっつきにくい用語も多いですが、見方の基本をおさえるだけで刀のことがさらに面白くなります。まずは、実物を見る機会があればじっくりと観察してみてくださいね!


【主な参考文献】
  • 『図鑑 刀装のすべて』 小窪 健一 1971 光芸出版
  • 『日本刀 職人職談』 大野正 1971 光芸出版
  • 『別冊歴史読本 歴史図鑑シリーズ 日本名刀大図鑑』本間 順治監修・佐藤 寒山編著・加島 進協力 1996 新人物往来社

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  この記事を書いた人
帯刀コロク さん
古代史・戦国史・幕末史を得意とし、武道・武術の経験から刀剣解説や幕末の剣術についての考察記事を中心に執筆。 全国の史跡を訪ねることも多いため、歴史を題材にした旅行記事も書く。 「帯刀古禄」名義で歴史小説、「三條すずしろ」名義でWEB小説をそれぞれ執筆。 活動記録や記事を公開した「すずしろブログ」を ...

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