役所広司主演 映画『八犬伝』虚と実の世界を描いた作品の見どころとは?

『絵本里見八犬伝』にみえる八犬士(出典:国立国会図書館デジタルコレクション)
『絵本里見八犬伝』にみえる八犬士(出典:国立国会図書館デジタルコレクション)

 2024年10月25日から映画『八犬伝』(以下、本作と略記することあり)が上映されます。主人公は、江戸時代後期の作家で、大作『南総里見八犬伝』(以下、『八犬伝』と略記)の著者として有名な滝沢馬琴(本名・滝沢興邦)です。

 馬琴を演じるのは、俳優の役所広司さん。数々のテレビドラマや映画に出演されてきた役所さんは、本作においても重厚・濃厚な演技を見せています。筆者は8月上旬、キノフィルムズに試写へ招待され、試写会(キノフィルムズ試写室)にて本作を鑑賞してきました。

 本作の特徴は、馬琴が生きた江戸時代後期の世界(実の世界)と、馬琴の描いた『八犬伝』の世界(虚の世界)が交互に描かれることです。馬琴は偏屈と評伝で評価されることも多い人物です。本作でもそうした馬琴の性格が露出している箇所もありますが、本作を見ていくにつれて、観客のそうした馬琴のイメージも徐々に変わっていくかと思います。

 劇作家・小説家の真山青果(1878~1948)は『随筆滝沢馬琴』(サイレン社、1935年)において、当初は馬琴の性格が嫌いであったが、時を経て馬琴の書簡類・日記などを読破していくにつれ、馬琴に親しみを感じるようになったと書いています。観客も青果と同様の「体験」を本作を見てするのではないでしょうか。

 本作は、馬琴とその友人で絵師・葛飾北斎(演・内野聖陽さん)の軽妙なやり取りと交流、馬琴と家族(妻子、息子の妻)の実生活が描かれていますが、そこもまた見所の1つです。ネタバレになるので詳しくは記しませんが、特に馬琴と息子・宗伯のやり取りは、感動を呼ぶところかと思います。

 馬琴の実生活のみならず、本作では『八犬伝』の世界も描かれています。八犬士同士や悪女・玉梓との戦いのシーンはCGを活用し、迫力満点です。現実世界の出来事にCGを多用していれば醒めてしまう人もいるでしょうが『八犬伝』は元来、小説。筆者はそこは気になりませんでした。

 本作は馬琴の生きた江戸時代と『八犬伝』の世界が味わえる「一度で二度美味しい」作品だと思います。江戸時代後期に活躍した歌舞伎狂言の作者・鶴屋南北の舞台「東海道四谷怪談」のシーンも登場しますので「三度美味しい」と言った方が正確かもしれませんが。感動とエンターテイメントの要素がつまった映画『八犬伝』、ご覧になれば新しい発見がきっとあるはずです。

文 濱田浩一郎(歴史学者)


★映画『八犬伝』公式サイト
https://www.hakkenden.jp/


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