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北海道議会の喫煙所問題 地方議会の実態とは?
- 2023/09/04
※今回の投稿テーマは、歴史記事という観点からは適切ではありませんが、”番外編” ということでご容赦願います。
神奈川県の「淫行条例」
日本には衆議院、参議院の他に都道府県議会、市町村議会というローカルな立法機関が存在します。いわゆる「地方議会」です。衆議院や参議院の議会の様子はニュースでも取り上げられることがありますし、youtubeでも色々と存在しているので何となく、見当がつきます。しかし、地方議会では何をやっているのだろうか? ということは地元の人間でも案外に知らないものです。地方議会の本来の役割は法律の範囲内で地域性を考慮した条例を作ることですが、一体どれくらい意味があるのか怪しいもんだ、という見方も多いようです。例えば、神奈川県では「淫行条例」というのがあり、未成年者の性交を禁止する条例を作っています。しかし東京都には「淫行条例」は無いので高校生カップルは「多摩川を渡れば大丈夫」と言っていたのです。
何故、東京都には「淫行条例」が無いのか、というと答えは明確で「男性は18歳、女性は16歳で結婚が法律上、可能であるから」という理由でした。それに対し、神奈川県は「うちの条例だって、ちゃんと婚姻者は除くと明記してある」と反論しました。第7条の1を見ろ、というので見てみましょう。
神奈川県青少年保護育成条例 第7条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 青少年 満18歳に達するまでの者(婚姻により成年に達したものとみなされる者を除く。)をいう。
多分、()内の婚姻により成年に達したものとみなされる者を除く、というのがそれだろうと思うのですが、「成年は何歳から」と言うのは民法で明確に決まっており(以前は20歳、現在は18歳)地方自治体が勝手に「婚姻者は成年とみなす」ことなどできないはずなので、この()内の記述は民法違反である可能性があるのです。
仮に16歳の女の子が結婚した場合「成年したとみなす」のであれば選挙権も与えねばならないはずですが、実際はそんなことはしていません。しかし、この条例は変更されること無く続けられています。幸い、民法改正で男女とも「18歳を成年とする」となったので、この問題は自然消滅してくれたのですが。
しかし、神奈川県の、この条例は性産業の暴力から青少年を守ろうという趣旨で作られたものなので、その方針に異を唱えるのは「性産業を生業とする人達」だけでしょう。圧倒的大多数は「賛成」してくれると思います。つまり「意味のある条例」と言えるでしょう。ですので、多少の「あれ?」はあるにしろ、肯定できるものだと思います。
さて、今、北の国、北海道で前代未聞の問題が起こっているのをご存じでしょうか?ここまで来ると笑っていいやら、呆れていいやら分かりませんが、とにかく述べてみましょう。
北海道議会の喫煙所問題 ことの発端
北海道議会のある道庁は2020年に新庁舎に建てかえることになりました。それに伴い、それまで設けていた「道庁職員用の喫煙所」を存続するか廃止するかが問題になりました。北海道は全国的に見ても喫煙者の多い所で道庁職員の喫煙者は900人にもなるので、新庁舎の屋上に職員専用の喫煙所を作った方が良いのではないか、という案が出たのです。確かに900人もの職員がタバコを吸うために近くの喫茶店やコンビニの店頭に集まると迷惑な話ですし、職員の離席時間が長くなり作業効率も下がってしまいます。しかし2018年に施行された「改正健康増進法」では、国・地方自治体の行政機関の庁舎では「基本的に敷地内は全面禁煙とする。通常の喫煙所を設ける場合は屋外のみOKとする。屋内の喫煙所は『たばこの煙の流出を防止するための技術的基準』を満たした場合にのみOKとする」としているのです。
しかし北海道は「幼稚園、小中高等学校は敷地内は全面的に禁煙。喫煙所も許可しない」と言う方針で健康増進法を推し進めようとしていたので、「道庁職員にだけ喫煙所を用意するのは明らかな優遇処置である」として反対の声が起きたのです。
まぁ、ここまではありそうな話です。都道府県職員向け喫煙所を設けている自治体は全国で36もあり、大部分が屋上でした。
自民党道議会の動き
北海道道議会は定数100人で過半数の53人の議員が自民党の議員です。つまり自民党が第一会派である訳ですが、その自民党が「自民党議員控室に喫煙所を設ける」と決定したのです。先の健康増進法では「屋内の喫煙所は『たばこの煙の流出を防止するための技術的基準』を満たした場合にのみOK」となっているのですが、JTが、それを提供すると言ってきたのです。一応、技術的基準を満たせば屋内に喫煙所を設けても良いことにはなっているので、これは健康増進法違反とは言えません。しかし、この決定に野党は猛反発し知事も難色を示しました。中でも公明党は、改正健康増進法の一部施行で行政機関が敷地内禁煙となった2018年7月から、所属議員の道庁敷地内での禁煙に踏み切る独自の取り組みを行っていたこともあり「新庁舎内の喫煙所問題は自民だけで決める話ではない」と強い反発を示しました。
自民党と公明党は国政レベルで連携しているので、道議会でも協力関係にあります。特に国政選挙の時には「欠かせない協力関係」であったのですが、この喫煙所問題で協力関係に亀裂が生じかねない状況になってしまったのです。危機感を抱いた自民党道連幹部は「公明党のメンツをつぶせば選挙協力に影響がある。喫煙所問題で火種を抱えるべきではない」と自民党道議員に呼びかけましたが「もう決めたことだから」と言って引き下がらないのです。
鈴木知事が職員用喫煙所の廃止を決定
そんな状況の中、鈴木北海道知事は新庁舎には道職員用の喫煙所を設けないこととする、と言う決定を下しました。幼稚園、小中高等学校を「敷地内前面禁煙かつ喫煙所無し」とする以上、道庁職員もそれに準ずるべきだ、という考えからでした。鈴木知事は、有名な日本最初の破産自治体となった夕張市の市長を破産後に引き受け、2期8年にわたって夕張市の改善に努力してきた人物です。それだけに道民の信頼も厚く、強い支持を得ています。これで「残る問題は自民党控室の喫煙所」だけとなりました。知事は自民党に「税金を使って喫煙所を作ることは絶対に許さない」とクギを刺しましたが、JTは「無償で提供する」と言うのです。ですので自民党は「金がかからないんだからいいだろう」と開き直ってきました。
本来、議院も含めた庁舎施設は全て知事の管理下にあります。ですので知事が「駄目だ」と言ったら駄目なのですが、議長が周囲に「第1会派の意見は尊重しなければならない」と発言したことから、にわかに自民党は強気に出てきました。ちゃんと「一定の技術基準」を満たしている喫煙所なのだから健康増進法に違反する訳でもない、合法的なものを設置するのに、なぜ知事は許可を出さないのだ、おかしいだろう、となってきたのです。
これに対し、鈴木知事は「道議会にかけ全会一致であれば認める」という方針を示しました。既に野党は猛反発しているので「全会一致で認める」ことなど有り得ません。つまり鈴木知事は「知事としての権限」ではなく「議会の決定」という形で決着を付けようとしているのです。
コロナ騒ぎで中断
ところが、そこへ新型コロナウィルスのパンデミックが起き事態は一変し、コロナ対策が最優先課題となったので議長は「新型コロナウイルスの収束まで喫煙所設置問題は協議しない」という見解を示し、この問題を「一時、棚上げにする」ことにしました。一見、当然の処理に見えますが「自民党の議員控室に喫煙所を作ることを認めるかどうか」で採決を取るだけなので、それほど時間はかかりません。やろうと思えば、1時間以内で終わりそうな内容です。それを棚上げにしたことで批判が起きました。
地元の新聞は「喫煙所を設けるかどうかについては、道民に分かるように公開の場で議論してほしい。それが道民に選ばれた代表である道議にふさわしい態度だろう」と書き立てました。それに対し議長は「専門家や有識者の意見も聞いたうえで慎重に判断したい」という見解を示しました。すると「本来なら、コロナ禍を契機に、健康への関心を高め、禁煙を実現するのが筋だろう。それなのに、先送りの理由にするのは姑息と言うほかない。公共施設の禁煙化が進む中、一般の道民も訪れる道議会で、議員が吸いたいから吸うという理屈は通用しない。」という反論が寄せられました。また「JTが無償で喫煙所を提供する、というのは贈収賄にあたるのではないか」という議論まで寄せられました。
しかしコロナ騒ぎは終息せず、遂に2020年を迎え、新庁舎が完成し利用が開始されました。しかし自民党議員控室には、まだ喫煙所はありません。そのためか新庁舎の地下駐車場で自民党の道議員が喫煙しているという噂が広がり保健所が調査に乗り出します。しかし確証は得られず「不問」とせざるを得ませんでした。しかし新聞記者の中には自民党の道議員が地下駐車場で喫煙している写真を取り「仮にも立法に携わる議員が法律を遵守しないとは何事か」と書き立てました。
だいたい、以上ですが、「たかが喫煙所」の問題で、北海道道議会は、どれほどの時間と労力を費やしたのか見当もつきません。とにかく問題発生から4年間、ずっと揉め続けているのです。
私の妻は北海道に実家があり、年に一回、私も一緒に帰省しているのですが、北海道テレビ(HTB)のニュースで政治のコーナーになると、必ず、この喫煙所問題が取り上げられるのです。最初は「へぇ」と思っただけでしたが、2年目になると「まだやってるんだ」、3年目は「うそでしょ。まだやってるの?」、4年目は「……」でした。
ちなみに北海道議会の議員に対しては歳費として年間、1人当たり2000万円以上が支払われており、全体では年間で20億円を越す金額が議員歳費として支払われています。施設維持費、選挙費用、その他水道光熱費や関連人件費などを勘案したら、まだまだ高額な金額になるでしょう。それだけの費用をかけて維持している議会で「喫煙所を設置させろ」「絶対にだめだ」という議論が4年間も続けられていることについて、北海道民の皆さんは、どう思われるでしょうか?これらの高額な維持費用は全て皆さんが払っている道民税で賄われているのです。
また、議会が会期終了し閉会すると議員は「視察」と称して海外旅行にいくことが多いのですが、その費用は全て「公務扱い」です。つまり税金で「視察」という名の海外旅行に行かせている訳です。これは歳費には含まれませんので、議員1人当たりに費やした公費は、先ほど申し上げた「年間20憶円」とは別勘定です。それだけのお金を費やして道民の皆さんは何を得ているのでしょうか? 地元の医師会長が「北海道の恥だ」と言う発言をされておられますが、私は寝ざめの悪いブラックユーモアを見せられているような気分にさせられてしまいます。
日本には47の都道府県がありますので、同様の議会が全体で47議会あることになります。更に市町村区があり、これは2018年の時点で全部で1741もあります。そして、この1741の市町村区、全てが議会を持っていますので、日本には地方議会が全部で1788あることになります。それぞれの議会を維持するのに、一体、いくらかかっているのか計算も出来ませんが、これらの地方議会がしていることは、全て同じで「条例を設定すること」です。行政が全国各地にあるのは行政という仕事の内容から見れば当然ですが、日本という狭い国に1790(衆議院と参議院を含む)もの立法府が本当に必要なのでしょうか?国も、そのことには気づいているようで市町村の合併などを推進して議会の数を減らす努力をしているようです。
1999年には3255もあった市町村区が2018年には1741まで減りました。ですが、そもそも「地方議会」というのが必要なのかどうか、を検討すべきではないかとも思えます。喫煙所を設ける。設けないで4年も議論しているような議会が必要でしょうか?
私も喫煙者ですが「喫煙するべきでない場所」で喫煙を控えるのは当然のことなので、それが10時間であっても我慢します。それが常識であり、マナーというものではないでしょうか?つまり「常識もマナーもないらしい」人物がうちには沢山いる、と北海道議会は自ら言っているようなもので、そんな人物に条例という法律を作る作業を任せて良いとは、とても私には思えないのですが。
※参考資料
北海道議会の喫煙所問題の動き
https://notobacco.jp/pslaw/hokkaidogikai20.html
Wikipedia 北海道議会 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9%81%93%E8%AD%B0%E4%BC%9A
NHK政治マガジン2019年12月18日
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/27588.html
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