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【やさしい歴史用語解説】「俸禄制度」

 江戸時代における武士の給料のことを「禄」と呼びますが、これは個人の功罪によって増減するものでした。現代のサラリーマンでもそうですが、手柄を挙げれば給料が増えますし、逆に不手際があれば減額、あるいは降格といったこともあります。

 ちなみに江戸幕府の役職では、それぞれ禄高の基準が設けられていました。江戸時代中期になると、もし役に見合わないほど少ない禄高の者が就任すれば、その在職中のみ不足している役料を補う「足高の制」が生まれています。

禄に加え、不足している役料を補う「足高の制」を定めた8代将軍・徳川吉宗(wikipediaより)
禄に加え、不足している役料を補う「足高の制」を定めた8代将軍・徳川吉宗(wikipediaより)

 禄の支給方法には大きく分けて二つのやり方がありました。

 一つは「地方知行制」と呼ばれるもの。これは主に幕府に仕える大身旗本、あるいは藩の上級家臣が受けるもので、わかりやすく言えば自分の知行地(所領)が持てるということです。領地やそこに住まう領民を支配することで、そこから得た年貢がそのまま収入になるという感じでしょうか。

 ただしデメリットもありました。ひとたび凶作や飢饉になると収入が激減しますし、知行地からコメを運搬するのも自前でしなければなりません。そこでせっせと新田開発をすることで、少しでも収入を得ようと努力をするケースも多かったそうです。

上級旗本は知行地を持つことができた。画像は新見正登と佐久間信近(wikipediaより)
上級旗本は知行地を持つことができた。画像は新見正登と佐久間信近(wikipediaより)

 もう一つの支給方法は「俸禄制度」というもの。幕臣でも身分の低い旗本や御家人など、また中級・下級藩士がこれに該当します。なぜなら家禄が低すぎて具体的な知行地が与えられておらず、天領や藩領から収納されたコメを現物支給されたからです。ちなみに現物支給されるコメを「蔵米」といい、支給を受ける武士を「蔵米取り」と呼んでいました。わかりやすく表現すれば、定期的に給料をもらうサラリーマン武士といったところですね。

 当初こそ蔵米をそのまま受け取っていたそうですが、米俵は重くて保管も煩わしいもの。そこで売買を仲介する「札差」という業者にお願いして、売却後に代金を受け取るパターンが主流となりました。

幕府の御米蔵が立ち並んでいたという蔵前の古地図(wikipediaより)
幕府の御米蔵が立ち並んでいたという蔵前の古地図(wikipediaより)

 おおむね一年を通じて3回に分けてコメが支給されたわけですが、さらに身分が低い下級武士には「扶持米」が与えられています。これは一種の手当とも言えるもので、例えば下級武士1人が一日生活するのに必要なコメが5合と算定すると、1ヶ月に1斗5升、さらに1年間で1石8斗となります。

 米俵に換算すると5俵という計算となり、これを一人扶持と呼んでいました。つまり夫婦二人で暮らしていれば二人扶持ということになり、10俵のコメが支給されたわけですね。もともと扶持米は限定的な手当だったのですが、やがて家禄と同じように恒久的な手当として扱われていきました。

 さらに最下層に位置する下級武士の場合、直接現金が支給される「給金取り」という制度もあります。もっとも低い格式にあたり、例えば牢屋番や番所に努める足軽などが該当しました。ちなみに武士を揶揄する「サンピン」という言葉がありますが、これは3両一人扶持という最下層の武士を指す言葉から来ているそうです。

 江戸時代も中期を過ぎると貨幣経済が発達し、米本位性に頼る武士の生活は困窮していきます。度重なる新田開発の影響で米価が安くなるにもかかわらず、米以外の物価が高くなるという現象が起きました。また幕府や諸藩の財政が苦しくなったことで俸禄も減らされ、多くの武士の暮らしが圧迫されていきます。

 やがて経済的に困窮した武士たちは札差から借金を重ね、武士の格式まで売ってしまう者まで現れました。こうして俸禄制度は実質的に崩壊しているにもかかわらず、幕末まで続いていったのです。

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  この記事を書いた人
明石則実 さん
幼い頃からお城の絵ばかり描いていたという戦国好き・お城好きな歴史ライター。web記事の他にyoutube歴史動画のシナリオを書いたりなど、幅広く活動中。 愛犬と城郭や史跡を巡ったり、気の合う仲間たちとお城めぐりをしながら、「あーだこーだ」と議論することが好き。 座右の銘は「明日は明日の風が吹く」 ...

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