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ロマンに溢れる厳島神社で行われる舞楽の謎

御前での胡蝶の舞(『日本の礼儀と習慣のスケッチ』より。出典:wikipedia)
御前での胡蝶の舞(『日本の礼儀と習慣のスケッチ』より。出典:wikipedia)
古代の中国と西洋を結んだ交易路である「シルクロード」の最終地は、一般的には中国唐代の都長安と言われています。しかし、文化的な見地で検証してみると、実は本当の終着点は日本だったと言ってよいでしょう。

それが明確にわかる資料が、奈良の正倉院にたくさん残されています。そして、シルクロードがもたらした文化の香りが偲ばれるものは、正倉院だけではありません。

広島県の宮島町にある厳島神社では、伝統的神事として執り行われる舞楽の中に、シルクロードの文化を見ることができます。舞楽は神事として一年を通じて演じられています。

厳島神社の舞楽

厳島神社では、一年の中で11回の祭式が行われます。そこで披露されるのが舞楽、舞を伴った雅楽のことを言います。

舞楽は、シルクロードの周辺や中国などで生まれた楽曲で、日本にも伝来し、宮中での儀式として演じられていました。その後、畿内にある有力な寺院や神社でも演じられ、時代は定かではありませんが、厳島神社にも伝わったということです。

厳島神社には、承安3年(1173年)との銘が入った、国の重要文化財にも指定される舞楽面が保存されています。この年代からわかるのが、平清盛が率いる平氏一門が参詣に訪れた時には、既に演じられていたということ。

様々な祭式で演じられる舞楽、中でも重要とされる神事の地久祭では、振鉾(えんぶ)・甘州(かんしゅう)・林謌(りんが)・拔頭(ばとう)・還城楽(げんじょうらく)の5演目と奏楽の長慶子(ちょうけいし)が演じられています。

拔頭について

一年に一度だけしか見ることができない演目の一つが拔頭です。神社の宮司さんによって舞われる拔頭、譜面などある訳もなく、大変珍しい「一子相伝の舞」で、所作だけによって子々孫々に伝えられています。正月5日の早朝5時半から始められる地久祭。舞楽はそれが終わった後、6時頃から神社の祓殿(はらへどの)前の、国宝高舞台で行なわれます。

拔頭は、常に手足を動かしながら舞う位置も絶えず移動するという活発な舞い。これは、「走舞(はしりまい)」と称される舞に属しています。拔頭の演目は、ザンバラ髪の仮面を被り、手に錐(きり)を付けた鉄製の短い棒を持って、舞台いっぱいを使って表現をする舞です。

舞をするのが年に一度だけとはいえ、高齢の宮司さんが舞うにはハードすぎる演目ですね。

二つの舞が意味するもの

拔頭が演じられた後の演目になっている還城楽(げんじょうらく)は、「番舞(つがいまい)」と呼ばれ、二つの舞がセットになっています。

まず拔頭の方ですが、唐の「楽府雑録(がふざつろく)」によれば、インドそびえる山中で虎に殺された父親の子供が、父の仇を討るため山に入り見事虎を退治して下山をする様を表わしたものだとか。

一方の還城楽は、唐の玄宗皇帝がまだ王子だった頃、韋后の乱を平定して都に凱旋したことを表わしているとされています。ただ別の解釈もあって、西域の人が好んで食べる蛇を見つけた、その喜びを表わした舞とも言われているんです。

確かに還城楽では、舞台中央にとぐろを巻いて鎌首を持ち上げる木製の蛇が置かれています。舞も、蛇を見つけて喜んでいるようにも見えますね。しかし、この内容では、拔頭と還城楽が番舞として結びつきません。遠くシルクロードがら伝わる途中で、何かが起こって変わってしまったとか。遠い昔から課せられた謎なのでしょうか。

インドの古い神話

実は拔頭について、虎を退治して下山をする様を表わしている舞ではないとする説もあります。

インドの古い神話に、パドウ(拔頭)王の踊りがあるそうなんですよ。インドの王パドウが愛馬のパイドウに乗って山中を進んでいる際、突然に出現した大蛇が王を襲ってきたので、馬のパイドウが勇敢にも大蛇と闘って打ち倒す様を表した舞になっているそうです。

まさに愛馬パイドウの奮闘を表わした舞で、そのため付ける仮面は馬面を象徴しているのだとか。左右の足を交叉する動きは、パイドウの歩行を表現したものだと解釈されています。 そして還城楽の方も、パイドウが退治した大蛇を、パドウ王が喜んで持ち帰る様子を表現した舞になっているのです。実際のところは不明ですが、これまでのような脈絡のない解釈より、充分に説得力がありますね。

一度実際に地久祭に来て、実際に見た拔頭と還城楽から考えてみるのも楽しいですね。源流を探す楽しみこそ、舞楽の魅力なのでしょう。そして、そのヒントの多くが、遥か彼方のシルクロードに秘められているというのもロマンです。まさに厳島神社は、シルクロードの終着駅になっているのですね。

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  この記事を書いた人
五百井飛鳥 さん
聖徳太子に縁のある一族の末裔とか。ベトナムのホーチミンに移住して早十数年。現在、愛犬コロンと二人ぼっちライフをエンジョイ中。本業だった建築設計から離れ、現在ライター&ガイド業でなんとか生活中。20年ほど前に男性から女性に移行し、そして今は自分という性別で生きてます。ベトナムに来てから自律神経異常もき ...

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