「光る君へ」紫式部が藤原宣孝に冷淡な和歌を贈った心情とは?

猫を抱く彰子
猫を抱く彰子

 大河ドラマ「光る君へ」第27回は「宿縁の命」。

 藤原宣孝と結ばれた紫式部ですが、結婚前に2人は和歌のやり取りをしていました。その時、式部はまだ越前国(現在の福井県)にいたのですが、都にいた宣孝は頻りに求愛の和歌を式部に送っていたようです。しかし、式部はそれに対し

「みづうみに 友よぶ千鳥 ことならば 八十の湊に 声絶えなせぞ」

(近江の湖に友を呼び求めている千鳥よ、いっそのこと、あちらこちらの湊に声を絶やさずにかけてください)

と返歌しています。


 当時、宣孝は40代中頃であり、妻もこれまで3人いて、妻との間には複数の子もいました。そうした状態であったのに、宣孝は近江守の娘にも愛を囁いていたようなのです。

「近江の湖に友を呼び求めている千鳥」というのは、宣孝のことを指します。更に式部は宣孝に次のような和歌も送っています。

「よもの海に 塩焼く海人の 心から やくとはかかる なげきをやつむ」

 「あちらこちらの海辺で塩を焼く海人が懸命に投木を積むように、様々な方々に言い寄る貴方。自分から好き好んで嘆きを重ねられるのでしょうか」という内容です。これまた、様々な女性に言い寄る宣孝への皮肉とも言える和歌です。

 こうした式部の返歌から、両者の仲はかなり深まっていたのではとの見解があります。確かに無視をせずに返歌しているわけですし、これらの返歌からは、多情で恋多き男(宣孝)への嫉妬のようなものも筆者は感じます。つれない式部の返歌に、宣孝は「涙の色を見てください」と、書状の上に朱を振って返すのですが、それにも式部は

「くらなゐの 涙ぞいとど うとまるる うつる心の 色に見ゆれば」

(貴方の紅の涙だと聞くと一層疎ましく感じます。移ろいやすい貴方の心がこの色で分かります)

と返歌。既に妻子がいて、それでも近江守の娘に言い寄ろうとしたという宣孝。宣孝と結ばれても、自分(紫式部)は結局、妾の1人に過ぎない。そうした想いと、たとえそうであったとしても、できるだけ宣孝の想いを自分に引きつけておきたいとの感情が、式部にこれまで見てきたような返歌を書かせたのではと推測されます。

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  この記事を書いた人
濱田浩一郎 さん
はまだ・こういちろう。歴史学者、作家、評論家。1983年大阪生まれ、兵庫県相生市出身。2006年皇學館大学文学部卒業、2011年皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は日本中世史。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。 著書『播 ...

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