まるで学級崩壊!?領国経営に苦悩した結城政勝の憂鬱
- 2025/11/26
戦国大名と聞くと、いかにも強大な権力をもって家臣や領民たちを統治していたイメージがあります。が、フタを開けてみるとなかなか領国経営に苦労していたようで、家臣や領民たちが言うことを聞いてくれないことも少なくありませんでした。
下総国(千葉県北部一帯)を統治していた戦国大名・結城政勝(ゆうき まさかつ、1503~1559)の制定した分国法『結城氏新法度』の条文には、彼の苦悩がにじみ出ています。今回はその苦悩の条文をいくつかご紹介いたします。
下総国(千葉県北部一帯)を統治していた戦国大名・結城政勝(ゆうき まさかつ、1503~1559)の制定した分国法『結城氏新法度』の条文には、彼の苦悩がにじみ出ています。今回はその苦悩の条文をいくつかご紹介いたします。
【目次】
考えなしに駆け出すな!
お城から法螺貝の音がしたからと言って、何も考えずに駆け出してはならない。
法螺貝の音が聞こえたら、まず各町内に集合せよ。それから使いの者をお城に派遣し、目的を確認した上で、然るべき準備をしてからお城に駆けつけるようにせよ。
ちなみに法螺貝の音が大きければ領地の外へ遠征、音が小さな時は領地内での事件と心得るように。
……法螺貝の音が聞こえるや否や「すわ一大事!」と何も考えず、押っ取り刀や何なら手ぶらで駆けつける者がいたのでしょうね。
やる気満々なのは結構ですが、一度お城へ駆けつけてから用事を聞いて、支度のために戻ってから再度駆けつけるのでは時間がかかり過ぎます。
またバラバラに駆けつけては、人数や物資の把握に時間がかかり、これも実務上よろしくありません。だからまずは町内の指定場所へ集合し、それからお城に使者を出してから、目的に合った軍勢を駆けつけさせたのでした。血の気が多い坂東武者たちを軍隊らしく整然と運用するのは、なかなか骨が折れたようです。
ちなみに法螺貝の音が大きい・小さいって、どのように聞き分けたのでしょうね。
門限破りは斬り捨て御免!
夜中に木戸を乗り越えた者は、斬り捨てられても文句を言ってはならない。いかなる事情があろうと一切の弁解は許さない。斬られたら斬られ損なので、木戸を乗り越えようとしてはならない。
他人宅の塀や垣根については言うまでもないことであるから、くれぐれも門限はきちんと守るように。
……城下町では街の各所に木戸が設けられ、夜になると閉鎖され、一切の通行が禁じられました。これを無理に乗り越えた場合は斬り捨て御免、逃げられてしまった場合は木戸番が共犯として処罰されたと言います。
しかしこういう決まりがあるにも関わらず、実際にはしばしば門限破りが行われたようです。
「もう門限過ぎちまったな」
「大丈夫、今夜の木戸番には貸しがあるから、見逃してもらおう」
……等々。こういうインチキは、いつの時代も変わりませんね。
当番はちゃんと守れ!
木戸番の割り当てについて考えているが、次の3パターンからどうすればよいか、皆にも考えて欲しい。
一、町内の全住民に等しく割り当てるのがよいか。
一、各家(世帯)から一人ずつ担当者を出して割り当てるのがよいか。
一、家を持っていなくても土地を持っている者は、家持ちに準じて割り当てるのがよいか。あるいは一つの敷地に二棟の建物がある場合、二回分を割り当てるのがよいか。
そなたらが木戸番の役目を押しつけ合うので、そなたらが納得できるように話し合って決めよ。今後はそれを法令に載せるから、きちんと守るように。
……結城政勝の提案が4パターンになっているような気もしますが、気にしてはいけません。とにかく「お前たちが決めろ。それでいいから、木戸番の役目をちゃんと守れ!」と半ば投げやりになっています。
先ほどの門限破りについても「お、今夜は木戸番がサボっているぞ。ラッキー!」とやすやす通過してしまうこともあったのでしょうね。
街の修理をサボるな!
城下町のあちこちが破損しているにも関わらず、みんなで目配せし合って修理を怠けているのは由々しき事態である。
本来ならばみんなから資金を徴収して修理すべきだが、現実的にそれは難しかろう。そこで、修理すべき物件の近くに住んでいる者が、全員の連帯責任で修理するように。
もし動員に従わない者がいれば、そやつは敵や賊と内通しているに違いないから、謀叛人として屋敷と土地を没収する。没収した屋敷や土地は、きちんと修理に従事した者への褒美としよう。
いざ没収に際して、自分の親戚だからとか友人だからとか言った弁護をしてはならない。弁護した者も同罪として屋敷や土地を没収するから、そもそもサボらないように。
……みんなから修理費用を徴収するのが現実的に難しい……要するに「反抗する者たちからカネを取り立てる自信がない」ということですね。
しかしそういう者が動員に応じなかった場合、ちゃんと屋敷や土地を没収できるのでしょうか。また強大な勢力を持つ家臣が弁護した場合についても、しっかりと罰することができるのか、はなはだ疑問です。
ドサクサ紛れに悪さをするな!
市場などには奉行を設置するので、不正の摘発や処罰を奉行以外の者が行うことは厳禁である。
奉行でない者が、不正の容疑にかこつけて容疑者を斬り殺したり、持ち物などを奪ったりしてはならない。
また市場での質取を禁ずる。もし質取をした者は処罰し、事の是非を問わず貸借関係を解消する。
……現代で言えば、警察官でない者が不正の言いがかりをつけて善良な市民を逮捕したり、金目のモノを没収したりするような感覚ですね。
「まったくけしからん!このエロ漫画は本官が没収する!ついでに罰金もよこせ!」
……みたいな。当時はそういうニセ奉行が市場などを跋扈しており、荒稼ぎが横行していたのでしょう。
また質取(しちとり)とは借金のカタに財物を奪いとる行為で、市場にやって来て商品や売り上げなどを奪って行きました。
こういう治安の悪いところでは商業も発展しにくいため、結城政勝は安心安全な市場づくりに苦労したようです。
酒の量をごまかすな!
酒売りの中には、客が用意した徳利や壺に、注ぐ酒を少なく売っている者がいる。昔から徳利や壺には注ぐ酒の量が決まっているのに、少なく注ぐのは盗人並みの悪行と言えよう。
そのような悪徳業者は摘発し、今後一切の酒造りを禁ずる。違反した者は処罰する。
一切の販売行為において不正があった場合、奉行が取り調べて罰金を科す。その時に悪徳業者を弁護してはならない。
……みんなの楽しみであるお酒の量をごまかすなんて、とんでもない大悪人ですね。結城政勝も義憤に駆られたことでしょう。
が、こういう決まりがあると言うことは、つまりちゃんと守られていなかったことを意味しています。
また悪徳業者を弁護する者が後を絶たず、悪徳業者もそういうパイプを恃みに、アコギな商売を続けていたのでしょうね。
棒打した者は罰金だ!
城下町や村々では、端午の節句や7月の大騒ぎで、盛んに棒打が行われている。これは末世だからか、それとも我が領内にはよほど乱暴者ばかり集まっているからか……まことに嘆かわしいことであるから、ただちに止めさせるように。
制止を聞かずに棒打などをして怪我をしたり死んだりしても、それはまったくの死に損でしかない。また棒打をした者からは罰金を取り立て、寺院や神社を建立する資金とするから、心しておくように。
しかし棒打という乱暴行為を慎む方が、寺社を建立するより、よほど功徳となるのだが。
……棒打(ぼううち)とは、意味もなくただひたすら棒で打ち合い叩き合いする庶民のストレス解消です。言うまでもなく危険なので、毎回死傷者が出たことでしょう。
7月の大騒ぎについては諸説あり、一説には疫病除けや災難除けと考えられています。が、それで人が死傷しては意味がありません。にしても、およそ法律の条文とは思えないボヤキぶりは、さすが政勝節と言ったところ。
「末世だからか、乱暴者ばかりだからか、棒打など止めてくれればいいのに。別に罰金を取りたい訳でも、寺社を建立したい訳でもないんだ。なぜみんな解ってくれないんだ」
そんなため息が聞こえて来そうですね。
おわりに
今回は領国経営に苦悩する戦国大名・結城政勝について、分国法の面から紹介してきました。法律と聞くと血も涙もない感じですが、こうして読んでみると、なかなか人間味あふれると言いますか……大変お疲れ様ですね。
他の戦国大名が作った分国法も、それぞれの人柄や土地柄が出ていることでしょう。また調べて紹介したいと思います!
【参考文献】
- 安野眞幸『戦国家法の形成と公界』(名古屋大学出版会、2024年)
- 高橋慎一朗『武士の掟 「道」をめぐる鎌倉・戦国武士たちのもうひとつの戦い』(新人物往来社、2012年)
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この記事を書いた人
鎌倉の最果てに棲む、歴史好きのフリーライター。時代の片隅に息づく人々の営みに強く興味があります。
得意ジャンル:日本史・不動産・民俗学・自動車など。
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