【麒麟がくる】第7回「帰蝶の願い」レビューと解説

今回はやっっっと信長が登場しました。いや、信長と出会う前に家康と、さらには本能寺と出会うことになろうとは、当初は思いませんでした。

大柿城の戦いを経て、また苦い思いをした織田信秀は考えます。今川は一番の脅威であり、そして長年攻防を繰り広げる斎藤も煩わしい。何より面倒なのが、同族である守護代の織田信友(彦五郎)が敵であるということです。

信秀は今川義元を警戒し、美濃のマムシ・斎藤道三と手を結ぶことを決めました。その同盟の証しとなるのが、道三の娘・帰蝶と、信秀の嫡男・信長の婚姻です。しかし嫁ぎたくない帰蝶……。

怪我を負って京から戻ったばかりの光秀は、帰って早々にまた新たなミッションを課せられることになりました。

鶴を見に行く帰蝶

道三は信秀との和議に同意しました。しかし、帰蝶は嫁ぎたくないと言い張り、父と口さえきかなくなってしまいました。ちょうどそんな時期に帰ってきたのが光秀です。

「鶴を見に行く道中で立ち寄った」という帰蝶の言葉を真に受け、「鶴が見られるのはもっと遠くなのに」と的外れなことを言う光秀。鶴は口実で、光秀に会いに来たのだと誰もがわかるところで、わからないのが光秀です。この「鶴を見に行く」というのはもちろん口実でしょうが、このあとの展開を暗示するものでもあります。

後半、帰蝶の思いとは裏腹に、道三の考えに寄り添う光秀。これに帰蝶は「信長という男を見てきてくれ」と頼むのです。「うつけ、うつけというが、信長はどういう男なのか、美濃では誰も知らない」と。

帰蝶は気軽に旅に出られる身分ではありません。光秀が自分の目となって、代わりに見定めてこい。そういうことです。「尾張に行って信長を見てこい」というミッション。「鶴を見に行く」はその暗喩でした。

尾張熱田と鶴のつながりについては、『万葉集』に高市黒人(たけちのくろひと)が詠んだこんな和歌があります。

「桜田へ鶴(たづ)鳴き渡る年魚市潟(あゆちがた)潮(しほ)干(ひ)にけらし鶴鳴き渡る」(万葉集・巻三・雑歌・271)
「桜田の方へ鶴が鳴いて飛んで行く。年魚市潟では潮が干たらしい。鶴が鳴いて飛んで行く」(訳は『新編日本古典文学全集』より)

鶴は湿地を好み、干潟で餌をあさる習性を持っているといいます。現在の愛知県名古屋市熱田は海からやや離れたところにありますが、当時は海に面していました。

「年魚市潟」というのは熱田神宮の南側、現在の南区あたりの入海だった一帯のこと。歌枕として知られる地ですが、実は「あゆち」が愛知県の件名の由来になったといわれているのです。つまり、帰蝶が鶴を見に行きたいというのはすなわち、古歌にちなんで鶴と縁深い尾張熱田に信長を見に行きたい、ということでしょう。


なぜ帰蝶は嫁ぎたくない、義龍は妹を嫁がせたくないのか

帰蝶はなぜ嫁ぎたくないのか。第7回では、本人の口からこのように説明されます。「一度目は何も分からず父上の仰せに従うた。それで私がどういう目に遭うたか分かっておろう」と。

帰蝶の光秀に対する恋心は、はっきりと「恋している」と言及されることはないながら、帰蝶の表情やしぐさから表れていました。しかし、それはそれ。帰蝶は嫁ぎたくない理由を「光秀が好きだから」だなんて言いません。

一度目の夫・土岐頼純は父・道三と対立する道を選び、尾張の織田信秀をけしかけて戦を起こした果てに、父に毒殺されてしまった。その辛い経験があるから、帰蝶の「嫁ぎたくない」は重みを持って描かれるのです。

「好いた人と一緒になりたいけど、身分やいろんな条件で簡単にはいかない」ということが、駒の口から語られています。これはしがらみのない身分の駒だから言えることで、現代的価値観に近いですね。

そりゃ、駒は光秀が好きでも、身分の差で結婚できないことは重々承知している。しかし、武家の結婚にはそれ以上のいろんなしがらみがあることを、本当の意味ではわかっていません。だから、帰蝶に他国との縁談のうわさがあることを口にして、お牧の方にたしなめられているのです。

また、帰蝶の結婚に反対する高政(義龍)についても、客観的に見た上で判断していることがわかります。
「頼純の次は信長、父に振り回されてあっちへこっちへと嫁がされ、帰蝶がかわいそうじゃないか!」とはなっていません。

  • 織田信秀は守護でも守護代でもない。尾張の守護・守護代は信秀と敵対しているのに、そんなときに和議を結んだりしたらこちらが睨まれる。
  • そして信秀と結べば、もうひとつの信秀の敵・今川義元も敵に回すことになる。
  • 美濃の国衆は土岐氏を主君と仰いできたのに、それをないがしろにする道三の決定はひとりよがり。長年戦ってきた信秀と結ぶなんて、国衆を敵に回したいのか。愚かの極み!

というわけです。客観的に情勢を見た意見で、一理ある。こちらもやはり武家らしい考え方であり、情では語りません。しかし光秀は、「自分の仕事は戦をすることではなく、国を豊かにすること」といい、そのために海に面した尾張とのつながりを持ちたいという道三の意見に傾いているように見えました。

義龍の差し出した盃を受け取って酒を飲みほした光秀、これから先の道三と義龍の対立でどちらにつくのか、そろそろ気になり始めますね。

義龍はここしばらく登場しないと思ったら、稲葉良通をはじめとした国衆を従えて反道三・親頼芸の動きを見せつつあります。しかし、国衆をまとめるというより、国衆に担がれている気が……。


熱田の活気を見た光秀は

帰蝶の願いで尾張に旅立った光秀は、熱田に到着して市場の活気に驚きます。

このシーン、市場は屋内セット。公式サイトで360度ぐるっと見渡せます。市場の奥には鳥居があり、熱田神宮へつながっていることがわかります。のちに、江戸時代になると熱田の宿場・宮宿は東海道一の宿場として栄えたそうです。

三種の神器のひとつ「草薙神剣」を御神体として現在も安置するという熱田神宮。熱田の市場は神宮を中心に栄えていることが、セットからもうかがえます。

次回、光秀は海を欲する道三の本意を知り、そして海のある土地がどれほど栄えているかを自分の目で見て、美濃のためには同盟を結ぶべきだ、という結論に至るでしょう。それを光秀に突き付けられた帰蝶は、どう諦め、結婚の決意を固めるのでしょうか。




【参考文献】
  • 校注・訳:小島憲之・木下正俊・東野治之『新編日本古典文学全集6 萬葉集(1)』(小学館、1994年)

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  この記事を書いた人
東滋実 さん
大学院で日本古典文学を専門に研究した経歴をもつ、中国地方出身のフリーライター。 卒業後は日本文化や歴史の専門知識を生かし、 当サイトでの寄稿記事のほか、歴史に関する書籍の執筆などにも携わっている。 当サイトでは出身地のアドバンテージを活かし、主に毛利元就など中国エリアで活躍していた戦国武将たちを ...

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