明智光秀と濃姫(帰蝶)はいとこ同士だったのか?ふたりの関係も検証

明智光秀と、信長の正室とされる濃姫(帰蝶)は、いとこ同士であったとされています。幼少期に仲が良く、大人になってお互い結婚したあとも想い合っていたとかいなかったとか。大河ドラマ『功名が辻』では、互いに恋心を抱く関係として、信長との三角関係を本能寺の変に絡めて描かれていました。いとこであり、なおかつ恋仲だったのか?そのあたりの関係についても詳しくみていきましょう。

信長の家臣と信長の正室

信長の家臣と信長の正室。両者とも織田信長と密接な関わりをもつ人物ですが、それ以前に美濃国出身という共通点があります。

明智光秀は美濃国の明智城(岐阜県可児市)で生まれたとされ、濃姫は美濃国の大名・斎藤道三の娘として同じく美濃に生まれています。

そもそも「濃姫」というのも「美濃国の姫」という意味の通称であり、本名は「帰蝶」だとか「胡蝶」だとか、複数の説があって定かではありません。

同じ国の名家出身というと政略結婚で親戚になることも多いですよね。光秀は言わずもがな明智氏の出身ですが、実は濃姫の母・小見の方も明智氏出身だったのです。


濃姫は光秀のいとこにあたる?

濃姫の母・小見の方は明智光継の娘

『美濃国諸旧記』によれば、小見の方は永正10年(1513)に生まれたとされています。『明智軍記』や『大日本史料』所収「明智氏一族宮城家相伝系図書」によると、彼女の父は明智光継。光秀の父である光綱は兄にあたります。

『美濃国諸旧記』『明智軍記』などの諸史料に基づいて作成。

『明智軍記』と『美濃国諸旧記』の系図の信憑性

このつながりを見ると確かにいとこ同士だ、とわかるのですが、これを鵜吞みにすることはできません。『明智軍記』は歴史の一級史料ではない単なる軍記物で誤謬も多くあまり信用できません。その点、「明智氏一族宮城家相伝系図書」も同様です。

また『美濃国諸旧記』もあまり信用できる書物ではありません。こちらも一級史料とは異なる記述が多いのが難点です。

信憑性の高い史料に2人の関係を示す記述がないため、残念ながら「いとこ同士であった可能性がある」としか言えないのです。

ふたりは恋仲?

史料が他にないので、上記の史料を参照することを前提に2人の関係を紹介していきます。

濃姫は天文4年(1535)生まれとされています。光秀の生まれた年は不明ですが、通説の没年(55歳)から逆算すると、光秀は濃姫より7歳年上ということになります。

濃姫が信長に嫁いだのは天文17年(1548)とされ、これは濃姫が13歳、光秀20歳の年でした。このころ、まだ明智十兵衛と名乗っていた光秀は斎藤道三の近習であり、濃姫とは親密な関係だったようです。

ところで、このふたりはドラマで描かれるように恋仲だったのでしょうか?光秀は濃姫が信長と結婚する3年前、すなわち天文14年(1545)ごろにはすでに妻木煕子と結婚していたとされています。

そのころ濃姫はまだ10歳になるかならないかの年。それまでいとこ同士で仲良く交流していたといっても、恋に発展するには幼すぎるように思えます。「絶対にない」とは言い切れませんが、ふたりが恋仲であった可能性は低いのではないでしょうか。


本能寺の変で光秀に味方した?

『明智軍記』から派生したエピソードのひとつに、本能寺の変では濃姫が信長を裏切り、光秀に味方したというエピソードがあります。

いとこ同士で幼いころから将来を誓い合った仲だったのに政略結婚で引き離されてしまったふたり。最後は信長への恨みを募らせる光秀に味方し、その後の行方は知れない……。


実際にそうだったら面白い話だと思いますが、これは後世に書かれた創作でしょう。というのも濃姫は信長と結婚して以降の記録がほとんど残っていません。実家の記録である『美濃国諸旧記』にも登場しないのです。

結婚後は信長の子を産むこともなく、仲が悪かったとも、逆に仲が良かったとも言われています。離婚説・早死に説で早々に信長の人生とかかわりがなくなったという説もあれば、本能寺の変で一緒に亡くなった、逆に生き延びて長生きしたという説も。

とにかく記録がまったくないので、後世の人たちは想像で好き勝手に書いたのでしょう。本能寺の変で光秀に味方したというのも、仲のいいいとこ同士が政略結婚で引き離されたという悲劇のロマンスを、読者の興味を惹きつけるように面白おかしく想像で書いたものだったのではないでしょうか。



【主な参考文献】
  • 藤田 達生『明智光秀伝: 本能寺の変に至る派閥力学』(小学館、2019年)
  • 二木謙一編『明智光秀のすべて』(新人物往来社、1994年)

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  この記事を書いた人
東滋実 さん
大学院で日本古典文学を専門に研究した経歴をもつ、中国地方出身のフリーライター。 卒業後は日本文化や歴史の専門知識を生かし、 当サイトでの寄稿記事のほか、歴史に関する書籍の執筆などにも携わっている。 当サイトでは出身地のアドバンテージを活かし、主に毛利元就など中国エリアで活躍していた戦国武将たちを ...

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