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国松警察庁長官銃撃事件の真犯人…これは普通の事件ではなかった!
- 2023/07/27
平成7年(1995)3月30日午前8時31分、自宅マンションを出た國松孝次警察庁長官はマンションの出口を少し出たところで、いきなり銃撃を受けました。銃声は4発続き、うち3発が命中。すぐに病院に搬送され、一命はとりとめましたが、全治1年6ヵ月という重傷をおわされました。
一命はとりとめた、とはいうものの手術中に心臓が3回も止まり、正直なところ「一命を取りとめたのが奇跡」というほどの重症でした。1995年3月30日というと、10日前にはオウム真理教による地下鉄サリン事件が発生し、8日前には上九一色村の、いわゆる「サティアン」と呼ばれるオウム真理教の一連の施設に強制捜査が入った時であり、テレビのワイドショーにオウム真理教のメンバーが出演し、教団の無実を訴えていた頃です。
オウム真理教は数々の事件に関係していたので、この事件もオウムのしわざと警察が疑ったのは当然でした。地下鉄サリン事件も霞が関の官庁街に通勤する公安関係者が主たる殺害目標であったと考えられていたので、なおさらです。警察のトップである警察庁長官を襲う動機を持っているのはオウム真理教以外には考えられませんでした。
しかし、いくらオウムの捜査を進めても、この事件だけは犯人が特定できません。そして平成22年(2010)3月30日午前0時に公訴時効となり、迷宮入りしてしまいます。実は、この事件は「非常に特殊」であり、普通の事件ではなかったのです。それが分かるのは警察庁科学警察研究所が調査を進めていった結果でした。
一命はとりとめた、とはいうものの手術中に心臓が3回も止まり、正直なところ「一命を取りとめたのが奇跡」というほどの重症でした。1995年3月30日というと、10日前にはオウム真理教による地下鉄サリン事件が発生し、8日前には上九一色村の、いわゆる「サティアン」と呼ばれるオウム真理教の一連の施設に強制捜査が入った時であり、テレビのワイドショーにオウム真理教のメンバーが出演し、教団の無実を訴えていた頃です。
オウム真理教は数々の事件に関係していたので、この事件もオウムのしわざと警察が疑ったのは当然でした。地下鉄サリン事件も霞が関の官庁街に通勤する公安関係者が主たる殺害目標であったと考えられていたので、なおさらです。警察のトップである警察庁長官を襲う動機を持っているのはオウム真理教以外には考えられませんでした。
しかし、いくらオウムの捜査を進めても、この事件だけは犯人が特定できません。そして平成22年(2010)3月30日午前0時に公訴時効となり、迷宮入りしてしまいます。実は、この事件は「非常に特殊」であり、普通の事件ではなかったのです。それが分かるのは警察庁科学警察研究所が調査を進めていった結果でした。
使用された銃と銃弾の特定
使用された銃
警察庁科学警察研究所は銃撃に使われた銃が ”コルトパイソン” であることを突き止めました。コルトパイソンはいわゆる「拳銃」です。リボルバーと呼ばれる回転式拳銃でありながら、非常に高価な拳銃でした。手作業での調整箇所が多く、生産しにくい構造をしていることから職人が念入りに1つ1つ、手作業で仕上げと調整を行っており「リボルバーのロールス・ロイス」とも呼ばれるほどの世界でも数少ない拳銃なのです。
コルトパイソンにはいくつかのバリエーションモデルがあり、この事件で使用されたのは「ハンターモデル」という、常のパイソンより銃身が長いものであった可能性が非常に高い、という結果が出たのです。そうでなくても数少ないコルトパイソンで、しかもハンターモデルとなると、世界でも数十丁しかない希少品です。そんなものが日本にあること事態が「既に異常」でした。
使用された銃弾
長官の体から取り出された弾丸は.38口径のナイクラッド・セミワッドカッター、ホローポイント型という特殊な銃弾でした。ナイクラッド・セミワッドカッターというのは銃弾全体をナイロン樹脂で覆ったもので貫通力が非常に強く、米国では「コップキラー」(警官殺し)と呼ばれた銃弾です。なぜなら防弾チョッキも貫通してしまうからです。その殺傷力の強さに米国では1992年に製造販売が禁止されています。
さらにホローポイント型というのは「銃弾の先がへこんだタイプ」の銃弾で、命中すると体内で潰れるように変形してしまい、より広範囲のダメージを与えるようになっているものです。銃だけでなく弾丸も非常に特殊なものであり、事件が起きた1995年では米国でも入手できない弾丸だったのです。
銃撃距離からみえる衝撃の事実
3発の弾丸の入射角度から計算すると、犯人は、およそ20m先の草むらの中から銃撃したことが分かりましたが、これも「相当に異常」なことでした。拳銃の射程距離は30m位はありますが、距離が伸びれば伸びるほど命中率は下がります。拳銃はライフルに比べると銃身が短いので弾丸の射出速度が遅く、命中制度も低くなります。現実的に拳銃で確実に相手を傷つけることが出来る距離は「せいぜい5m程度」と言われています。オリンピックのピストル射撃競技の距離は25m、50mですが、これは「オリンピックだから」です。つまり、普通の人がちょっと射撃練習をした程度では20m離れたところから相手に弾丸を当てることは、ほぼ不可能なのです。
しかし犯人は20m離れたところから4発を撃ち、3発を命中させています。これはオリンピック級の腕前の持ち主でなければできないことだったのです。さらに使用されたコルトパイソンという銃はシングルアクションの銃でした。シングルアクションの銃は「一発撃ったら、次の弾を撃つためには自分で撃鉄を上げなければならない」のです。犯人は最初の一発を撃ったあと、撃鉄を起こし撃つ、という動作を3回しているのです。
シングルアクションの銃の良いところは構造が簡単なので故障が起こりにくいという点ですが、撃鉄を起こすという動作は時間がかかるので、連射しにくく、連射した場合は命中精度が著しく下がるのが普通です。ライフルは銃弾発射の反動を肩に当てた銃床で受けるので体勢に大きな崩れは起きませんが、拳銃は「手と腕で反動を支えなければならない」ので連射した場合、狙いが狂いやすく、命中精度が2発目以降では大きく下がるものなのです。
それにもかかわらず、この犯人はシングルアクションのコルトパイソンで4発を撃ち、3発を命中させています。この事実は、犯人は拳銃を扱い慣れており、しかも実力はオリンピック級であることを示しているのです。
警視庁公安部による、結論ありきの捜査
つまりこの事件は、高価で世界的にも希少な銃で、かつ1992年に製造販売が禁止された銃弾を、3年後の1995年に使い、しかもオリンピック選手並みの腕前が披露されたということです。どれ1つをとっても「普通ではない」ことばかりです。犯人は相当な拳銃使いでなければなりませんが、「拳銃」というのは軍隊では重視されませんし、訓練も行なわれません。なぜなら射程が短く、威力が弱いため、戦争では役に立たないからです。拳銃は尉官、佐官、将官といった位の高い軍人が護身用に持つだけです。となると、犯人は軍関係者ではありません。
また、日本では警察官が拳銃を持っていますが、日本ではコルトパイソンもナイクラッド・セミワッドカッターのホローポイント型弾丸も支給されることは絶対にありませんので警察官でもないでしょう。オウム真理教の信者だった警視庁の巡査長が「私がやりました」と自首したのですが、これは真っ赤なウソでした。おそらく教祖に褒められる、とでも考えたのでしょう。内容は辻褄が合わず、物証も何も出ず、ということで立件はされず、逆にオウムに警察の情報を流したことで懲戒免職になっています。
米国では「ガンマニア」と呼ばれる人達がいて、拳銃による大会も行なわれているので拳銃を練習する場はたくさん有ります。拳銃に特化した技術の習得を目指す人達もいますので、犯人はそういった所で相当な訓練を積んだ人物であると考えられました。
しかし、警察がいくら捜査しても、そんな人物は全く見つかりませんでした。当然ながら、これはオウムのメンバーのしたことではありません。彼らの中にそのような人物像に合致する人間は誰一人いなかったからです。
またオウムがいわゆる「武装化」を開始したのは、選挙に大敗した後の1990年あたりからであり、1992年に製造販売が禁止された銃弾を入手出来るはずもありませんでした。
警察組織のトップを銃撃するという前代未聞の事件は警視庁公安部が捜査を担当することになりました。しかし警視庁公安部は最初から「これはオウム真理教の仕返しに違いない」と考え、オウム真理教の捜査に全力を尽くしていました。そしてオウム真理教の信者で元巡査長の会社員K氏、教団防衛庁長官、教団建設省幹部の計3人を殺人未遂容疑で逮捕するに至ります。
ただ、元巡査長の証言は二転三転し、とても信用できるものではなく、教団幹部2名も「私は関係ない」の一点ばりでした。証拠固めも出来ず、公判を維持できる見込みも全くなくなり、東京地検は勾留期限を前に全員を処分保留として釈放しました。
これは事実上、「彼らは関係ない」と認定したのと同義でした。その後も捜査は続けられましたが、これといった容疑者は現れず、完全に行き詰ってしまうのです。
真犯人「N」の自供
しかし警視庁刑事部に神戸の警察から、ある連絡が入ってきます。現金輸送車を襲った強盗殺人未遂犯を取り調べていたところ、「俺が国松を撃った」と供述している、というのです。それはNという人物でしたが、Nの身の上を洗った警視庁刑事部は驚愕します。Nは茨城県の出身でしたが秀才で東大に現役合格。しかし在学中に左翼運動にのめり込み、革命を志して退学して渡米し、軍事訓練を受けていたのです。
特に拳銃の扱いに優れており、1980年代後半にアメリカでコルトパイソン・ハンターモデルとナイクラッド・セミワッドカッター・ホローポイント弾を偽名で購入していたことも明らかになりました。そして「国松を狙撃した時は、ハンターにTASCOⅡを装着していたな」とまで言っているのです。
TASCOⅡというのはパイソン・ハンター用の照準スコープのことですが、この時点で警察は武器の情報などを一切、公開していなかったのです。Nはアメリカで銃撃の訓練を受けたあと、日本に帰国しましたが、帰国したNは完全にテロリストでした。革命軍を組織する軍資金を集めるために、あちこちの会社や商店に忍び込んで金庫破りをしていました。そして偶然、職務質問をしてきた警察官をいきなり、拳銃で射殺したのです。
この射殺事件でNは19年の懲役刑を言い渡され、刑務所に入れられます。この警察官射殺事件は非常に冷酷に行われていました。職務質問をしてきた警察官に対し、顔色1つ変えずにいきなり拳銃を警察官の頭に突きつけて発砲したのです。殺した後も平然としており、捕まった後も顔色1つ変えることはありませんでした。Nの頭の中には「日本で革命を起こすために必要なことをしたまで」という意識しかなかったのです。
Nは幼少時代、貧乏にひどく苦しめられ、それで日本の体制を憎悪するようになった、と言われていますが、非常に頭が良く器用でもありました。そんなNはキューバ革命を成功させたチェ・ゲバラを尊敬していたそうですが、それだけでは説明のつかない冷酷さを内に秘めている人物だったのです。何となくですが「反社会性パーソナリティ」いわゆるサイコパスを感じさせる一面が見え隠れします。
Nが何故、自ら自供を始めたのかというと、どうやら警視庁公安部が元巡査長の会社員K氏を逮捕したから、というのが動機だったようです。要は、「他人に手柄をさらわれた」ように感じたらしいのです。
Nの証言は「犯人でなければ知り得ない内容」に満ち溢れており、警視庁刑事部はNが真犯人であると確信します。しかしN真犯人説は警視庁内では見向きもされませんでした。何故なら、この事件は警視庁公安部の担当であり、公安部は「オウムがやったこと」という結論ありきで捜査をしていたからです。
Nを取り調べた警視庁刑事部のH氏は、幹部から密かに言われたそうです。
「お前、警察内部に抹殺されるかもしれないから気をつけろ。駅のホームの端には立つな」
と。つまり、Nが真犯人だと公安部のメンツが丸つぶれになってしまい、そうなったら公安部の連中から報復を受けるぞ、ということなのです。
その後、Nは神戸での事件で無期懲役の判決を受けました。無期懲役が確定した人物を訴追しても意味はありません。警視庁刑事部はNから完全に手を引きます。そして、ついにこの事件は控訴時効を向かえてしまうのです。
Nは現在でも刑務所で服役しています。もう高齢なので出て来ることはないでしょう。認知症が進んでいるとも言われます。
あとがき
職務質問をしてきた警官を銃殺した時のNの冷酷さは、「ある未解決事件」を連想させます。スーパーナンペイ事件です。縛り上げられ、身動きが出来ないバイトの女子高校生2人の頭に順番に銃を突きつけ、バン、バンと発砲して殺害しているのです。あまりの冷酷さに犯人は外国人ではないか、という説も出ている位ですが、当時、会社や商店の金庫破りをしていたNなら、その冷酷さが理解できます。
ただ、スーパーナンペイ事件で使用された銃はフィリピン製のスカイヤーズ・ビンガムという粗悪品であることが判明しています。この銃は命中精度がえらく低いので「押し付けて撃つ」のが最も確実な命中のさせ方なのです。
拳銃のプロであるNが犯人だとしたら、そもそもそんな粗悪品を使うのか? という疑問が残ります。それについて、ある人から聞いた言葉が思い出されます。
「プロは色々な銃を使い分けるんですよ。相手が一般人なら、そんなに命中精度の高いものは必要ない。ビンガムで十分でしょう。まさか撃った銃弾を全ては回収はできない以上、銃弾に残る線条痕は証拠として残りますからね。
もし、いつも同じ銃を使っていたら同一犯だって、すぐにばれちゃうじゃないですか。だいたいビンガムなら ”押し付けて撃つしかない” ということを知っているのはプロである証拠ですよ」
もし、いつも同じ銃を使っていたら同一犯だって、すぐにばれちゃうじゃないですか。だいたいビンガムなら ”押し付けて撃つしかない” ということを知っているのはプロである証拠ですよ」
三重県にあるNの本拠地を神戸警察が家宅捜査した際、実に色々な種類の銃、弾薬が大量に押収され、その種類はゆうに100を越えていたそうです。一体、Nがどれだけの未解決事件に関与していたかは、今となっては、もう知る術はほとんどないようです。
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