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女流画家の歴史・北斎の娘から上村松園まで

 現在では、世界で活躍する女性アーティストが珍しくありません。しかし、昔の女流画家は数が少なく、またそのほとんどが画家の夫や父親のサポート役でした。

 しかし、男性中心の画壇でも才能を発揮し、後の世に名を連ねる女流画家たちが存在しました。彼女たちは世間の評価など気にもとめず、時には世間に抗いながら、みずからの画業を極めていきました。

 中でも、突出した才能をもち、その人生も波乱に富んだ三名の女流画家を紹介します。

夫婦で画業を極めた・池野玉蘭

 江戸中期に活躍した画家・池大雅の妻である玉蘭(ぎょくらん、1727~1784)も優れた画家でした。もともと彼女は母親が和歌をたしなむ文化人で、母の店は文化人の集まるサロンという、芸術センスを育む土壌で育ちました。

池大雅・玉瀾夫妻(出典:wikipedia)
池大雅・玉瀾夫妻(出典:wikipedia)

 夫の池大雅は、文人画で独自の技法を極めた天才画家ですが、その性格は豪放磊落(ごうほうらいらく)で、生活には無頓着。酒のため筆を質に入れてしまい、ときには指と爪だけで絵を描き、安い値段でも気軽に絵を描いていました。

 そんな池大雅のことを玉蘭の母が気に入り、二人は結婚したのですが、玉蘭自身もそんな貧乏暮らしを楽しんでいたようです。この夫婦は、頼まれれば安い値段で扇などに絵を描いたり、お客に布団を渡して自分たちは反故紙に埋もれて眠ったりと、楽しそうなエピソードに事欠きません。

 彼女の技法は、絵の師匠でもある夫・池大雅の画風を引き継ぎながらも、独自の色彩感覚とリズムで描かれています。

 しかし、夫の死後は自らの絵で身を立てようとせず、手習いや扇絵の注文で生計を立てていたそうです。

北斎を超える天才・葛飾応為

 日本を代表する画家・葛飾北斎。その娘・応為(おうい、生没年不詳)もまた、天才でした。その才能はすさまじく、父である北斎が「美人画では娘にかなわない」と言い残したほどでした。

浮世絵に描かれた葛飾応為(露木為一 筆、出典:wikipedia)
浮世絵に描かれた葛飾応為(露木為一 筆、出典:wikipedia)

 実は応為は一度、嫁にいったのですが、亭主の絵が下手だったので別れたというエピソードがのこっています。また、応為は家事をほとんどせず、部屋が散らかれば父親とともに引っ越しを繰り返すという、画業三昧の生活をしていました。

 そんな応為の画風は西洋画の影響を受け、ほかの日本画とは一線を画したオリジナリティにあふれています。また、光と影のコントラストが美しく、「江戸のレンブラント」とも称されています。

 しかし、いくら才能があっても、当時の画壇は男社会だったためか、あるいは名声に興味がなかったからか、応為もまた玉蘭と同じく、北斎の死後は門人や親戚の家を渡り歩きながら、扇絵などを描いて暮らしていたようです。

あらがう京女・上村松園

 池野玉蘭・葛飾応為は、自らの絵で名を残すことをしませんでした。これは、二人の自由な性格によるものかもしれませんが、江戸の女流画家はほとんどが夫や父親が有名な画家であり、彼らの名声がついて回ったからかもしれません。

 時代は流れ、明治になると自らの絵で名を残した女流画家が現れます。

 上村松園は京都の葉茶屋の長女として生まれました。松園は幼い頃から絵が得意で、彼女の才能を認めた教師のすすめで絵を志し、鈴木松年に入門。初期の名作「四季美人図」はイギリスの王子に買い上げられる名誉を賜ります。

 しかし、やはり明治の画壇も男社会のため、苦労も多かったようです。展覧会に出品した絵に落書きをされる嫌がらせを受けますが、松園は「かまいませんから、そのままにしておいてください」と言い放ち、女と侮っていた主催者側も最後には陳謝したのだとか。

 また、当時としては珍しいシングルマザーの道を選んだことで、映画や小説ではスキャンダラスな印象がついてしまった松園ですが、男社会にあらがい、自らの画業を極めた清廉さが絵からも感じられます。

まとめ

 かつての女流画家は、「閨秀画家」とよばれ、女性の手遊びの意味でとらえられていました。また、女性の画業は画家である家族のサポート役と考えられていましたが、近年の研究で、ようやく過去の優れた女性たちの功績が発見されるようになりました。

 もしかしたら、これから女流画家の隠れた作品が発見されるかもしれません。

※参考書籍
『女性画家の魅力』
『青眉抄』

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  この記事を書いた人
日月 さん
古代も戦国も幕末も好きですが、興味深いのは明治以降の歴史です。 現代と違った価値観があるところが面白いです。 女性にまつわる歴史についても興味があります。歴史の影に女あり、ですから。

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