コフンのナカミ ~古墳には何が埋められているの?〜
- 2024/06/07
2023年、奈良県奈良市にある「富雄丸山古墳」から発掘された長さ237cmの“蛇行剣”(古代東アジア最長の鉄剣!)と、長さ64cmの“鼉龍文盾形銅鏡”(これまで出土例の無い盾形の銅鏡)が公表され、ニュースとなりました。
古墳は古代のお墓ですが、古墳には何かしらの歴史的遺物が埋まっています。例えば、土器や埴輪や上記のような鉄剣や銅鏡など。未だタイムマシンを持たない我々にとって、こういった遺物はその時代の様子を知ることができる貴重な宝物です。
まさに「古墳は古代の秘密が詰まった宝箱」です。そこで今回は「古墳に埋められているもの」に焦点を当ててみましょう。
古墳は古代のお墓ですが、古墳には何かしらの歴史的遺物が埋まっています。例えば、土器や埴輪や上記のような鉄剣や銅鏡など。未だタイムマシンを持たない我々にとって、こういった遺物はその時代の様子を知ることができる貴重な宝物です。
まさに「古墳は古代の秘密が詰まった宝箱」です。そこで今回は「古墳に埋められているもの」に焦点を当ててみましょう。
古墳を掘る、ということ
まず最初に、古墳だけでなくその他遺跡(昔の人々の生活跡)を掘る(発掘する)という行為は、それまで残っていた遺跡の状態を破壊することになります。つまり、「発掘=破壊」であることを認識しておく必要があります。ですから、むやみやたらに発掘調査が行われるわけではなく、土地改良や開発など仕方のない場合に発掘調査が行われることがほとんどです。ただし、“発掘したら予想以上に歴史的価値のあるもの”だった場合、遺跡の保存が優先されることもあります。また、保存を目的に遺跡の“一部”を掘ることもあります。
実際に古墳を掘ってみると、様々なものが掘り出されますが、全てが「古墳に埋められたもの」ではありません。
古墳を造った時は “古墳の表面上にあったもの” も長い年月で土中に埋まってしまいます。“葺石(古墳の墳丘表面に積まれたり貼り付けられたりした石)” や “埴輪” がこれに該当します。ですから、今回は登場しません。
では、具体的に古墳には何を埋めたのでしょうか?
そもそも“古墳はお墓”
古墳はお墓ですから「葬られた人(被葬者)」が埋められています。全国には約16万もの古墳があると言われていますが、被葬者が特定できる古墳はほとんどありません。それは、古墳時代には葬った人の名前を記して残す“墓誌”というものが無かったからです。
現在、被葬者が特定できるのは「御廟野古墳(天智天皇陵)」や「野口王墓(天武・持統天皇陵)」等、全体的にみると非常に少ないです。
これらの古墳は、発掘により得られた情報を基に造られた年代を判断し、一緒に供えられた品物(副葬品)の種類や質、量などを細かく研究することで判明したそうです。凄いですよね!
なお、被葬者はそのまま土中に埋められる訳ではなく、「棺」に入れられ、埋められます。
この時、棺を直接埋める場合と、棺を収める施設を作って埋める場合とがあり、これらを「埋葬施設」と呼んでいます。つまり、古墳には「埋葬施設」や「棺」が埋まっているわけです。
棺の種類
被葬者が眠る棺には材質や形状によって様々な種類があります。木棺
木をくり抜いて作った棺で、以下のような種類があります。- 割竹形木棺:大きな丸太を縦割りにして内部をくり抜き、棺と蓋にした最も簡素な構造で、弥生時代から広く採用されているものです。
- 舟形木棺:割竹形木棺の両端を船の舳先のように加工したものです。古墳時代初期から見られますが、加工技術が必要であまり多く発見されていないので、身分が高い人の棺だった可能性があります。
- 箱形木棺:木の板を組み合わせて箱状にしたものです。古墳時代中期から採用されます。
石棺
石を加工して作った棺で、以下のような種類があります。割竹形石棺
割竹形木棺同様の構造です。古墳時代前期に多くみられます。舟形石棺
舟形木棺同様の構造です。古墳時代前期に多くみられます。箱形石棺
箱形木棺同様の構造です。縄文時代から続くものですが、なぜか近畿では殆ど採用されていません。長持形石棺
構造自体は箱形石棺同様ですが、蓋石や短側石がカマボコ状に突起し、その形状から長持形と呼ばれます。古墳時代中期からみられるようになります。近畿を中心とした大型古墳で主に採用されています。家形石棺
構造は割竹形石棺と同じですが、蓋石が屋根の形をしたオシャレなものです。古墳時代中期以降から全国でみられるようになります。埴輪棺
粘土を焼いて作ったもので、土器同様、焼き方によって土師器棺と須恵器棺があります。古墳時代後期にみられるようになります。また、古墳に立てられていた円筒埴輪を棺に再利用した“埴輪転用棺”もあります。 実際に博物館や古墳へ行ってみると棺を展示している所があります。その時は、材質や形に注目して見てみると面白いですよ。
埋葬施設の種類
棺を収める埋葬施設も様々な種類があります。直葬
文字通り、棺をそのまま土中に埋めます。副葬品は棺の中に納めます。木棺直葬だと、木は土中で朽ちて無くなり、人骨は溶けて無くなる(日本は酸性土壌なため)ので、発掘しても副葬品以外“何も残っていない”ケースが多いそうです。粘土槨
木棺の周りを粘土で囲って埋葬する方法です。副葬品は直葬同様、棺の中に納めます。こちらも、発掘時は粘土郭だけが残り、棺と人骨は無くなっているケースが多いそうです。なお、この埋葬施設は後述する竪穴式石室の簡易版として全国に普及したようです。
竪穴式石室
墓壙の底に棺を安置したあと、棺に接する部分に板状の石を重ねていき、棺と板石の間に角礫を隙間なく詰め込んで、最後に大きな蓋石をかぶせたものです。 使用される棺は割竹形木棺が非常に多く、木棺を置く場所にあらかじめ粘土を敷いたり、床全面に砂利を敷いたりしています。また、石室内に浸透してきた雨水を排水するための暗渠排水施設を設けている石室もあります。
さらに、石室内側や棺にベンガラや水銀朱が塗られているものもあり、祭祀色が非常に濃い埋葬施設と言えます。副葬品は棺の中や外に供えてあります。
古墳時代前期から全国で採用されますが、中期以降は姿を消します。
横穴式石室
墳丘の側面に石室内へ入る通路を設けた埋葬施設です。一般的に横穴式石室は、通路である“羨道”と埋葬用の空間である“玄室”をもち、“立柱石”と呼ばれる石で区切られます。
なお、
玄室は羨道よりも両側に広がっている構造→両袖式
玄室は羨道よりも片側だけ広がっている構造→片袖式
玄室と羨道は同じ幅で立柱石で区切られる構造→擬似両袖式
玄室と羨道は同じ幅で立柱石が無い構造→無袖式
といったように、玄室と羨道の幅の広さで種類分けされています。
横穴式石室の最大の特徴は、後から何回でも出入りできることです。ですから、時期が異なる複数人の埋葬が可能になりました(追葬)。
この埋葬施設は古墳時代中期に大陸から伝わり、後期になると全国で盛んに採用されるようになります。
群集墳といった小型の円墳(家族墓)にも積極的に用いられるのは、やはり追葬が可能だからでしょう。
横口式石槨
本来石室内に置かれていた石棺が単体で埋葬施設となったもので、石棺の横側に穴を開け中へ出入りできるようになっています。古墳時代終末期に多く採用されるようになります。
横穴式木芯室(横穴式木室)
墳丘に横穴をあけ、石ではなく木組みで構築したものです。非常に珍しい埋葬施設ですが、そのほとんどで木棺を埋葬しています。現在、横穴式木芯室で石棺が発見されているのは大阪府吹田市にある「新芦屋古墳(一辺20mの方墳)」の一例のみです。副葬品あれこれ
被葬者と一緒に埋葬された物を“副葬品”といいます。 主な副葬品としては、 以下のようなものがあり、これらのほとんどが葬儀の際に使用する祭祀用として一緒に埋葬されます。
- 銅鏡
- 腕輪や勾玉、管玉といった石製品
- 剣や鉄鏃、甲冑といった鉄製武具
- 鉄製の農具
- 土器
しかし、時期によって副葬品にも以下のように流れ(ブーム)があったようです。
- 古墳時代前期…銅鏡や石製品、農具がメイン
- 古墳時代中期…武具や馬具が増える
- 古墳時代後期…豪華な装飾の施された武具、土器が入ってくる
この流れは、それぞれの時代背景や古墳(墓)に対する考え方の変化が影響しているものと考えられます。
まとめ
今回は「コフンのナカミ」と題して、古墳に埋められているものに焦点を当ててみました。棺も埋葬施設も副葬品も、時代によって変化があることがわかりましたね。皆さんも古墳や出土品への見方が変わったのではないでしょうか?お暇な時は、ぜひ古代の宝箱である古墳でコーフンしてみてください。
【主な参考文献】
- 『古墳解読 古代史の謎に迫る』武光誠 河出書房新社(2019年)
- 『知識ゼロからの古墳入門』広瀬和雄 幻冬舎(2015年)
- 『日本の古代を知る 古墳まるわかり手帖』広瀬和雄 二見書房(2023年)
- 『知られざる古墳ライフ』誉田亜紀子 誠文堂新光社(2021年)
- 『古墳のひみつ 見かた・楽しみかたがわかる本』古代浪漫探求会 メイツ出版(2018年)
- 『古墳時代の鏡・埴輪・武器』樋口隆康、大塚初重、乙益重隆 学生社(1994年)
- ※Amazonのアソシエイトとして、戦国ヒストリーは適格販売により収入を得ています。
- ※この掲載記事に関して、誤字脱字等の修正依頼、ご指摘などがありましたらこちらよりご連絡をお願いいたします。
コメント欄