大河ドラマ「べらぼう」蔦屋重三郎の最初の出版物『一目千本』とは何か

 大河ドラマ「べらぼう」第3回は「千客万来『一目千本』」。

 安永3年(1774)、吉原細見(遊女屋や遊女など吉原情報を盛り込んだ冊子)『細見嗚呼御江戸』(版元は鱗形屋)の「小売・取次」を担った蔦屋重三郎。重三郎は同書の「改め」も担当していました。

 改めとは、取材を行い得られた情報を盛り込むことです。重三郎は同書の編集にも関与していたと推測され、そうした経験は彼にとって貴重だったはずです。同書が刊行された安永3年は、重三郎にとって記念すべき年となります。重三郎の初めての出版物『一目千本』が7月に刊行されたからです。『一目千本』とは遊女評判記であります。

 しかし、同書を見てみるとそこに描かれているのは、遊女の顔ではなく、数々の花です。木蓮花・菊・百合・山葵・葛などの挿し花が描かれ、その横に例えば「大山」「白玉」といった遊女の名が添えられています。吉原遊郭の遊女を花に見立てて紹介しているのです。絵を描いたのは絵師の北尾重政。当時、一流の絵師であると評判が高かった人物でした。

 同書には様々な花が描かれてはいますが、そこから遊女の様を想像するのは困難との声もあります。筆者も同感です。『一目千本』は豪華な仕立ての絵本ですので、大量に刊行されたとは考えられていません。

 名声高い北尾重政が絵を描いているとは言え、遊女の顔ではなく、挿し花の絵です。庶民が是非とも欲しいと思うものではないでしょう。それでは絵本が売れず赤字ではないかと誰もが思うでしょう。そこにカラクリがあったであろうことを「べらぼう」の時代考証を務める鈴木俊幸(中央大学教授)が指摘しています。

 同氏は『一目千本』が取り上げている遊女と遊女屋に偏りがあることを指摘。網羅的でないことから「挿花に名を取り合わせてほしい遊女、あるいは遊女屋からの出資(本の出版に際し、購入希望者や入集者が予約金を納めること)で制作費用をまかなうことが前提の出版物だった」と推定されているのです。


【主要参考文献】

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  この記事を書いた人
濱田浩一郎 さん
はまだ・こういちろう。歴史学者、作家、評論家。1983年大阪生まれ、兵庫県相生市出身。2006年皇學館大学文学部卒業、2011年皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は日本中世史。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。 著書『播 ...

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