大河ドラマ「べらぼう」蔦屋重三郎の最初の出版物『一目千本』とは何か
- 2025/01/20
大河ドラマ「べらぼう」第3回は「千客万来『一目千本』」。
安永3年(1774)、吉原細見(遊女屋や遊女など吉原情報を盛り込んだ冊子)『細見嗚呼御江戸』(版元は鱗形屋)の「小売・取次」を担った蔦屋重三郎。重三郎は同書の「改め」も担当していました。
改めとは、取材を行い得られた情報を盛り込むことです。重三郎は同書の編集にも関与していたと推測され、そうした経験は彼にとって貴重だったはずです。同書が刊行された安永3年は、重三郎にとって記念すべき年となります。重三郎の初めての出版物『一目千本』が7月に刊行されたからです。『一目千本』とは遊女評判記であります。
しかし、同書を見てみるとそこに描かれているのは、遊女の顔ではなく、数々の花です。木蓮花・菊・百合・山葵・葛などの挿し花が描かれ、その横に例えば「大山」「白玉」といった遊女の名が添えられています。吉原遊郭の遊女を花に見立てて紹介しているのです。絵を描いたのは絵師の北尾重政。当時、一流の絵師であると評判が高かった人物でした。
同書には様々な花が描かれてはいますが、そこから遊女の様を想像するのは困難との声もあります。筆者も同感です。『一目千本』は豪華な仕立ての絵本ですので、大量に刊行されたとは考えられていません。
名声高い北尾重政が絵を描いているとは言え、遊女の顔ではなく、挿し花の絵です。庶民が是非とも欲しいと思うものではないでしょう。それでは絵本が売れず赤字ではないかと誰もが思うでしょう。そこにカラクリがあったであろうことを「べらぼう」の時代考証を務める鈴木俊幸(中央大学教授)が指摘しています。
同氏は『一目千本』が取り上げている遊女と遊女屋に偏りがあることを指摘。網羅的でないことから「挿花に名を取り合わせてほしい遊女、あるいは遊女屋からの出資(本の出版に際し、購入希望者や入集者が予約金を納めること)で制作費用をまかなうことが前提の出版物だった」と推定されているのです。
【主要参考文献】
- 松木寛『蔦屋重三郎』(講談社、2002年)
- 鈴木俊幸『蔦屋重三郎』(平凡社、2024年)
- 櫻庭由紀子『蔦屋重三郎と粋な男たち!』(内外出版社、2024年)
- ※この掲載記事に関して、誤字脱字等の修正依頼、ご指摘などがありましたらこちらよりご連絡をお願いいたします。
- ※Amazonのアソシエイトとして、戦国ヒストリーは適格販売により収入を得ています。
コメント欄