【麒麟がくる】第2回「道三の罠(わな)」レビューと解説

麒麟がくる第2回、まさか1話全体を使って「加納口の戦い」を描くとは思いませんでした。これだけ丁寧に合戦シーンが描かれたのも珍しいような気がします。

加納口の戦い

光秀が東庵と駒を連れて美濃へ戻ってきたころ、織田信秀の軍が美濃へ侵攻している、というところからスタートしました。天文16年(1547)9月22日(現代の暦では冬に入る前の11月ごろ)、加納口の戦いです。

この合戦については、天文13年説もあり、史料によって内容も異なります。「麒麟がくる」では大筋は『信長公記』の通りに描写されましたね。信秀軍が稲葉山城に迫り、午後4時ごろに一時退却するも、斎藤軍の追撃で大敗。織田方の死者も、信秀の弟の織田信康に、織田因幡守、青山与三左衛門、千秋季光、毛利敦元と、『信長公記』に記録されている面々の死がちゃんと劇中で説明されていました。

それにしても信康、まさか立ちション後に死ぬことになるとは……。

丁寧な合戦シーン

今回は尺を長く使って合戦を描いたのも印象的でした。今までのドラマでは、陣中の軍議、兵が刀や鑓を交える戦闘シーンを細切れに、戦況は伝令が伝えるシーン、またはナレーションで見せる、というのがよくあるパターンではないかと思うのですが、「麒麟がくる」では丁寧に描いてくれました。

鉄砲が合戦の主戦力となる以前の戦いなので、飛び道具で一番活躍するのは弓矢、そして投石器。そして落とし穴も大活躍です。矢はビュンビュン降ってくるし、兵士は火だるまになる。原始的な戦いって結構こわいな、と思わせてくれます。

このころはまだ甲冑も完全な当世具足ではなく大袖がかなり大きくて、過渡期であるとわかります。また、音の使い方もよかったですね。「エイエイエイ(織田軍)」「エエトウエエ(斎藤軍)」という進軍の掛け声の使い分けがまずおもしろかったですね。

適当に雄叫びをあげて突っ込んでいくのではなく、ちゃんと訓練された兵士が上の指示の下できっちり動いているんだろうな、というのが感じられます。

退き鉦で退却を報せ(屋敷の中にいる帰蝶もこれで戦の動きを把握している)、陣太鼓でリズムよく進軍。この陣太鼓の音に合わせての戦いは、映画「レッドクリフ」を思わせます。

撮影規模こそ全然違いますが、迫力を出すこまかなこだわりからも、映画を観ているかのような気分になります。


大将首にやっつけ仕事感だけど?

光秀は美濃へ戻るとすぐに道三に鉄砲を渡し、旅の報告をしました。「旅費はあれで足りたか」という問いに、十分なほどだった、と答えるのですが、「半分は返せよ」という道三の言葉にはビックリ……。

そう、誰も全部あげるなんて言ってないのです。第1回からやたら損得を気にする道三、前田利家ほどの守銭奴ってわけではありませんが、いいキャラをしてますよね。

さあ、光秀は「此度の戦で侍大将の首をふたつ取れば帳消しにしてやる」と言われたので、戦の間中「侍大将~!侍大将はどこだ~!!」と「侍大将」を連呼します。やっつけ仕事感がすごい。

目的がお金になってしまってはちょっとまずくないか、というところで、作品の本筋にグイっと引き戻す流れに。見つけた侍大将の肩を掴んで顔を見ると、叔父の光安にそっくり。

明智光安のイラスト
明智光安のイラスト

光秀はそのために首を落とすのをためらってしまった、と悔います。そして、そのとき「こんなことが武士の本懐か」と感じたのだと。

東庵、駒は「それでも勝ったんだからいいじゃないか」「おめでとうございます」と言う。実際、光秀が思うようなことなんていちいち気にしていられないのが普通のことなのでしょう。

敗れた織田信秀も、討死した弟、家臣たちの名を聞いて悲しむものの、次の瞬間には「城に帰って寝るか」と何でもないことのようにいいます。本当に何でもないことだったかどうかは別として、そう考えなければやってられなかったのでしょう。

『信長公記』を見ると、信秀はこの大敗の直後に三河へ出兵しています。


黒幕の頼純を毒殺する道三

戦が勝利に終わり、道三は守護・土岐頼純と謁見します。舅の勝利を讃える頼純でしたが、実はこの人物こそ信秀を動かした張本人です。信秀の軍は2万。信秀ひとりが動かせる數ではありません。

道三は乱波(らっぱ/忍び)を信秀のもとに潜り込ませて事前に察知していたようです。また、頼純の妻・帰蝶も何らかの形で知ったのでしょう。

帰蝶は鎧兜もつけずやってきた夫を責め、「父上、我が夫をお許しください」と道三に頭を下げます。

ここ、アレ?と思ってしまうシーンです。帰蝶は本来ならば、夫の頼純を立てなければならないところです。それに土岐家は守護で、斎藤家は守護代。頼純の方が立場は上なのですが……。

このあたりからも見えますが、守護とは名ばかりであり、実権は守護代の道三が握っていることがよくわかります。そういうことがあってか、帰蝶も婚家ではなく父を立てるのですね。

また、「我が夫を許してください」という言葉には、頼純が何をしでかしたかを知っていて、父が夫をどうするつもりかも知っていて、それでもなんとか許してくれないか、という気持ちがあったのかもしれませんね。

結局、道三は頼純を毒殺してしまいましたが。史実では、頼純は病没したことになっていますが、道三によって殺された、とも見られています。

道三(本木雅弘さん)が点てた毒茶、これはもう某お茶のCMを純粋な気持ちでは見られません。

今回のラストで歌いながら頼純を毒殺したそばから、直後の次回予告で頼芸に「そなた頼純を殺したそうじゃな」と言われて「私が?」と心外な顔をしてみせる道三、「真田丸」の真田昌幸を思わせるところもあり、食えない感じが本当にいいキャラです。


次回、義龍の出自問題が浮上?

次回「美濃の国」では、土岐頼芸が登場します。頼芸は道三側室・深芳野をもともと愛妾としていた人物。ここで義龍(高政)の出生にまつわる秘密が語られるようです。


義龍については第2回でも、自分が正室の子ではないことにコンプレックスを抱いている描写がありました。そこへきて、今度は側室の子であるどころか、道三の子でもない可能性が浮上します。

一方、正室の子であっても女子の帰蝶、次回は夫の死からどう立ち直るのかが描かれますが……。今度は今川にも動きがあり。このあと今川の勢いを案じた道三は信秀との和睦へ向かいます。その証となるのが帰蝶と信長の縁組です。

信長がなかなか出てきませんが、次回は動きがあるでしょうか?

最後に。次回放送に向けての要チェック記事は以下3本です。ぜひご参照のほど、よろしくお願いいたします!





【参考文献】
  • 『国史大辞典』(吉川弘文館)
  • 横山住雄『中世武士選書29 斎藤道三と義龍・龍興 戦国美濃の下剋上』(戎光祥出版、2015年)
  • 谷口克広『尾張・織田一族』(新人物往来社、2008年)
  • 奥野高広・岩沢愿彦・校注『信長公記』(角川書店、1969年)

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  この記事を書いた人
東滋実 さん
大学院で日本古典文学を専門に研究した経歴をもつ、中国地方出身のフリーライター。 卒業後は日本文化や歴史の専門知識を生かし、 当サイトでの寄稿記事のほか、歴史に関する書籍の執筆などにも携わっている。 当サイトでは出身地のアドバンテージを活かし、主に毛利元就など中国エリアで活躍していた戦国武将たちを ...

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