『甲陽軍艦』より
三方ヶ原で家康との決戦を控えていた信玄が、物見に徳川軍の陣形と軍勢の様子などを偵察させたときのこと。
ーー 遠江国・三方ヶ原付近ーー
偵察を終えた物見の兵が戻ってきて、信玄に報告した。
申し上げます!
徳川軍の備えは薄いゆえ、我が軍の勝利は疑いないかと・・。
ううむ・・・。
慎重な信玄は、寡兵の徳川軍であるにもかかわらず、鶴翼の陣(=鶴が羽を広げているような形の陣形)を敷いていたため、再びその物見と信春に対して偵察してくるよう命じた。
そして、徳川軍の様子をつぶさに観察した信春が戻ってきて報告した。
御屋形様。確かに物見が言うように、徳川軍の備えはいかにも薄く、合戦すべきかと存じます。
うううう~む・・・。
しかし、慎重な信玄はなおも決断に迷っていた。すると信春が言った。
・・御思慮はもっともですが、この合戦の勝利は確実でございます。
こうして信春が重ねて言ったため、信春を信頼していた信玄はついに決戦を決断したという。
『甲陽軍鑑』より
長篠合戦で、武田軍が大敗して総退却となると、馬場信春は追撃してくる織田・徳川の大軍の進路を防いで戦い、主君・勝頼を逃がすことに成功。しかし、馬場隊の多くが討たれ、ついには小高い場所で槍を手に指揮していた信春だけが手傷も負わずに残った。
そして、まもなく敵兵に囲まれた信春は
それがしは馬場美濃である。討って手柄にするがよい
と言った。信春を恐れた敵兵たちは誰も近づこうとしなかったが、川井三十郎という武士一人だけが槍を手に立ち向かってきた。これに信春は応戦することもなく…
馬場美濃である。介錯するがよい!
と静かに言った。そうして川井なる者に首を与えたという。
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