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【麒麟がくる】第9回「信長の失敗」レビューと解説

  • 明智光秀
 2020/03/18
「麒麟がくる」第九回レビュー用

帰蝶が信長に嫁ぎ、ようやく信長をじっくりと見られるようになりましたね。染谷将太さん演じる信長は、今までの大河ドラマの信長像とはずいぶん違った印象があります。丸顔、童顔で、愛らしさを感じる人物。

しかし一方で、ためらいなく首をとってしまうところなどはよく知られている信長像を踏襲しているようです。
(文=東 滋美)

松平広忠の死

前回から登場している家康の父・松平広忠。このころは今川配下にあり、織田とは対立関係にありました。幼い嫡男・竹千代は織田の人質になっています。今川義元の命により、織田攻めの準備のため道中を急いでいた広忠は、突如襲撃にあい殺されてしまいます。

史実でもこのころ24歳で死んだとされています。死因はよくわかっておらず、

  • 病死(『三河物語』ほか)
  • 家臣の岩松八弥に刺殺された(『岡崎領主古記』)
  • 一揆に殺された(『三河東泉記』)

など、複数の説があります。

大河ドラマファンならば、1983年の「徳川家康」を思い出すでしょう。近藤正臣さん演じる広忠は、村田雄浩さん演じる岩松八弥に殺されてしまいました。この説がおそらく最も有名で、『国史大辞典』ほか多くの辞典はこの説をとっています。

しかし今回は違いました。広忠は信長によって殺された、という斬新な展開。

「まさか、そんなことってあり得るのか?」と思うかもしれませんが、3つめの説「一揆殺害説」には、織田弾正忠の武略によるものであるという見方もあるので、あながちあり得ない設定でもないのです。

実際に命じたのは信秀だったか信長だったか、その違いはあるでしょうが、織田家が関与していた可能性はあります。

広忠の死の報せは、菊丸によって水野家へ伝えられます。水野信元は竹千代の母・於大の方の異母兄。於大の方は、菊丸が持ち帰った脇差を見てかつての夫の死を知ります。

菊丸が脇差で広忠だと判断したということ、菊丸が確認したときには、すでに広忠の首はなかったことが示唆されていますね。

ところで、菊丸は今まで正体不明の男でしたが、今回やっと立ち位置が判明します。水野家に仕え、竹千代(家康)を守る忍びであることがわかりました。菊丸はオリジナルキャラクターですが、モデルは初代服部半蔵なのでしょうか。

旧来の信長像を踏襲しつつ、新しさのある信長

『信長公記』で信長が世間に「大うつけ」と言われていたという時代、帰蝶が輿入れしました。

さっそく祝言をすっぽかされて帰蝶はやや気分を害しますが、翌朝現れた信長との初対面で印象を変えます。世間でうつけと呼ばれるだけあって、とても常識的な人間とは言えない人物でしたが、領民を第一に考える信長の姿に好感を持ったようです。

信長の後ろ姿を見やる帰蝶の瞳にちょうど光がさして、この政略結婚に希望を抱いたような、いい画でしたね。

美濃は干し柿、尾張は干しだこ。地域性を表す小物がまたいいですね。父・道三が欲した海の産物をさっそく味わいます。

前回、予告で信長が父・信秀を怒らせるシーンが流れましたが、怒らせた理由が予想外でした。信長が引き出物といって父に差し出したのは、広忠の首です。

首桶でなく行器(ほかい/儀礼で食べ物を入れるもの)に入れるあたり、信長のヤバさが際立っていました。首桶は「おんな城主直虎」で見慣れている人も多いでしょう。あれはもっと飾り気のないシンプルな桶です。

登場から早々に、父には「うつけ」と怒鳴られ、母は愛想をつかして次男をかわいがる。信長のキャスティングから、今までの信長像とは大きく違う信長でしたが、基本的なところは従来どおりのようです。

「父上に喜んでもらいたくて」広忠を襲撃して首をとった信長。動機が理解しがたいですが、本人は大真面目なんでしょうね。領民のために魚を獲ってきて売る、領民のために化け物退治に出かける、父上のために広忠の首をとる。

これらはあまり大差がないことなのでしょう。人に喜んでほしい一心なのです。(ところで、帰蝶に語った化け物の話は作り話だったのか、それとも広忠襲撃を言い換えたものだったのか)

父上はこれでまた今川の対応をしなければならなくなりますが、そこには思い至らないのでしょうか。ただ、広忠が織田領に侵攻する前に彼を討ってしまえば、嫡男をおさえている織田は三河を手に入れたことになる。信長は一応、利害を考えて行動しています。

残念なのは空気が読めない、人の心の機微がわからないことでしょうか。こういう性質が、のちに荒木村重、浅井長政、松永久秀、明智光秀、家臣や同盟国に次々と裏切られる要因のひとつなのか……。

目的のためなら自分を慕う竹千代の父親でも平気で殺してしまう残忍さもありながら、一方では天真爛漫で、人好きのする人物。父・母に否定される家で、新しく家族になった帰蝶には好印象を持たれたこと、これは今後の希望になりますね。

お互い、父親が時々大嫌いになる。嫌いなものが一致している夫婦はうまくいきます。

のちの正室・妻木煕子

さて、真打登場です。美濃では光秀の嫁取りが叔父によって静かに進められています。相手は妻木氏の娘・煕子です。

父は誰なのか、光秀とはいつ結婚したのか、よくわかっていません。後世に書かれた逸話には、輿入れ前に疱瘡にかかり、顔に痘痕が残ってしまう、というエピソードがあります。

妻木氏は代わりに妹のほうを嫁がせようとしますが、光秀は「いつかは変わってしまう容貌の美しさよりも、心の美しさが大事」と言って煕子を迎えた、という話。

これはひとつの逸話に過ぎず、煕子はのちも織田家中で信長の近習がうわさするほどの美女だった、という話もありますから、「麒麟がくる」でも疱瘡にかかることなく嫁ぐのではないでしょうか。

それにしても、今まで帰蝶、駒にそれぞれ思いを寄せられながら、とくに駒に関しては向けられる感情に気づくことなくスルーしていた感のある光秀。今回はえらい動揺していますね。

「大きくなったらお嫁においで」と言った、と幼いころの思い出を語りながら、それも「子どものころの話でございます」と冗談めかし笑う煕子。

翻弄する才能がありますね。あの朴念仁には、これくらいちらつかせるのがちょうどいいのです。


【参考文献】
  • 『国史大辞典』(吉川弘文館)
  • 奥野高広・岩沢愿彦・校注『信長公記』(角川書店、1969年)


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